霧夜

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僕は彼に、一度だけであったこと事があった。
その時の僕はまだ小さくて、僕はいつも周りにされるがままだった。
あれをしなさい、これをしなさい。僕は言われる度にまるで操り人形のように動いていた。
そんな僕を変えてくれたのが、彼だった。
別に直接教えてくれたわけじゃない。彼の姿を見て、彼が自分の意見をしっかり持って動いているところを見て、操り人形にされて、虐められていた僕を助けてくれた彼を見て、僕はそこで初めて変わろうと思えたんだ。
僕も一人の人間だから、いつか彼のようになって、誰かの背中を押せるような人になりたかった。

今の僕があるのは、全て彼のおかげ。
だから、今度は僕が彼の背中を押してあげる番。
暗い部屋でうずくまっていた彼を、僕は抱きしめて
「大丈夫、大丈夫」
と声を掛けた。
遠い遠い、昔の記憶。
今度は僕が彼を支えたいと、あの時の恩返しがしたいと思ったんだ。

7/18/2023, 12:30:30 AM