蓼 つづみ

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11/29/2025, 11:08:50 AM

午後の光が
床に斜めに落ちる
埃が金色に舞う部屋で、

風が赤い風船をふわりと持ち上げ
意図とは無関係に踊りだす瞬間、
弾ける笑いがこぼれた。

光る、揺れる、動く、落ちる、音がする。
笑いに理由はない。

世界は丸ごと予想外で、
丸ごと安全で、
自分を脅かすものはなかった。

やがて私たちは、
あの瑞々しい響きを失ったように思う。

歩むたびに、手のひらから
砂のようにこぼれていくもの。

幼い頃、当たり前に握っていた
温度、無邪気、驚き、直感、
むき出しの安心。

「世界が、無条件には自分を受け入れてくれない」と知った瞬間、あの無傷の響きは遠ざかった。

けれど、砂の粒のように、
響きは手のひらの下で眠っている。
触れれば、ひそやかに光を取り戻す。

だから、世界がふと揺れたり、
偶然の光や音に触れたりした瞬間、
あの笑いはほんの一瞬、
静かに顔を出すのかもしれない。

題 失われた響き

11/28/2025, 11:29:28 AM

朝露が湧くころ、僕たちはまだ目を覚まさずにいる。
静寂の世界で地表は凍り、霜は静かに生まれる。

その表面は光を受け、角度に応じてささやかに揺れる。
銀から青、青から金、金から白金。
――色相は風のように移ろう。

低い朝日が触れると、霜の結晶はプリズムのように微細な虹を走らせ、
密度の高い霜は、地面を光のヴェールで覆い、凛とした朝の空気を映す。

けれど、霜は生まれた瞬間から溶けはじめる。
光に溶けて還る。――柔らかな終焉。

消えゆく霜は、結晶の縁で光を拾い、内部は透け、半透明になる。
壊れながらも一瞬、世界を透かして照らし、静かに消えていく。

霜は消えても蒸気となり、夜ごとに再び生まれる。
しかし、同じ結晶の形として戻ることは二度とない。

美しいものは、いつも儚い。
それでも、たとえ消えても、その輝きは決して奪えない。

あの輝きこそ、僕たちの内側に息づいていると信じたいんだ。

題 霜降る朝

11/28/2025, 12:27:43 AM

あなたの中にあるどんな衝動も、
どんなざわめきも、拒む必要はない。
それは不当なものじゃなく、乱れているのでもない。
それはただ、生きている感覚そのものだ。

責めなくていい。恥じなくていい。
否定する必要なんてどこにもない。
あなたはあなたのままでいていい。
その許しを与えるのは、ほかの誰かじゃなくて、
あなた自身の静かな声だ。

今はまだ染みついた禁令が、
薄い膜のように重なっている。
けれど、その自己否定をゆっくりほどいていく。

あなたの存在は、息づくに値する。
そしてその価値は、誰かの視線や善悪では決まらない。
あなたが生きていることそのものが証明になっている。

これは解放ではなく、回復だ。
「そこまで強く縛らなくていい」
「自分自身を傷つけない」
「私は、私を壊さない」
せめて、あなただけは、
あなた自身の心を脅かすのをやめてほしい。

あなたはもう自分に対して剣を向けるのをやめていい。
“自己許容”を持っていい。

その温かさを少し内側に染み込ませていこう。
ゆっくりでいい。
あなたの呼吸の速度でも、思考の速度でもなく、
“心の深呼吸”の速度で。

今はただ、あなたはあなたに命令しない。
圧迫しない。煽らない。
ただ存在をそのまま肯定する働きだけを持っていい。

いまのあなたは、
ただ「自分を否定しない状態」に帰ってきているだけ。
その状態を、怖がらなくていい。押し返さなくていい。
逃げなくていい。この“温かい薄膜”は、あなたが自分に害を与えないと知ったときにだけ生まれる、極めて安全で、誰にでもあるべき衣だ。

息を吸うたびに胸の奥が温かく広がる、吐くたびにふわっと緊張がほどけていく。

自分に厳しくする時間ばかりなんだから、深呼吸するのと同じように、心をほどく時間も作ってあげてください。

題 心の深呼吸

11/26/2025, 9:33:20 PM

蒼穹の下、散らばる無数の糸。
選んだ覚えもないのに、
どこかの断面で君の糸と私の糸が擦れ、
ほぼ無音のまま絡みついた。

星光より細く、風の影より脆い糸。
触れれば千切れるはずなのに、
ほどけることなく、静かに絡まりを深めていく。

恐怖に気づいた時には遅く、
伸ばした指先よりも
時のほうが速かった。

拒む間にも、
離れたいと願う間にも、
絡まりの隙間では何かが増殖し、
鼓動の気配に似たものが立ち上がる。

望んでいなくても、
時間は容赦なく先へ進み、
絡んだ糸を「結果」へ押し込んでいく。

広くても、蒼くても、冷たくても、
逃れようとした軌跡さえ
糸の拘束に飲み込まれていく。

これは縁でも運命でもない。
ただ一度絡まったというだけで、
時が勝手に命を生やしてしまう
徹底して残酷な生成の現象だ。

そこに恋情も相互理解もない。
ただ強い香りに誘われ、
痛みの声を上げる。
あれは愛ではなく、
生存の連鎖をつなぐための、
純然たる本能の機構にすぎない。

題 時を繋ぐ糸

11/25/2025, 11:38:10 AM

おちばのみち
ちいさなかぜ
ぜんまいのやま
まつぼっくり
りすのあしあと
とんぼのはね
ねむるきのこ
こもれびのそよぎ
ぎんいろのくも
もりのおく
くさのゆめ
めざめるあさ
さざめくおちば
バイオリンのおと
とおくからきこえ
えにしのように
にじむひかり

題 落ち葉の道

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