「静かな情熱」
「ニンゲンしゃーん!」「……。」「ねねー!」「……。」
「ニンゲンしゃん?」
ぺちぺち。「……ん。」「んー?」「……。」
「ねんねちてるー。」
「ボクもねんねちよー。」
ニンゲンのそばで小さな機械はころり寝転ぶ。
寝転んだはいいものの、なかなか眠れないらしい。
「ねんね、やめるー!」
「なに、ちよーかなー?」
色々と考えてみたものの、いろんな遊びをし尽くしたあとだから、その子の頭の中にはなにも浮かばなかった。
しばらくころころ転がっていると、突然思いついた。
「ボク、あいちゅたべたーい!」
そういえば前にこの子の弟がこんな話をしていた。
「ニンゲンくんはねえ、冷凍庫の左側にちょっと高いアイスクリームを隠しているのさ!」
「ボクもおいちいあいちゅ、たべるのー!」
心の中で静かに情熱の炎を燃やしながら、よちよちと進む。
アイスクリームを見つける旅が始まった。
この子が乗り越えなくてはいけないものは、散らかしたおもちゃの町。ニンゲンに気付かれないよう、静かに歩かないと……!
「おもちゃいぱーいあるのー……おかたじゅけちないとおこられちゃう。あとでがんばるの!」
なんとか通り抜けたと思ったそのとき───。
がちゃん!
おもちゃを蹴ってしまった!
「あ!」「……ん?」
ニンゲンを起こしちゃった?!
「はぁ……。」「……!」「……。」
「ニンゲンしゃん、またねんねなの。」
「どきどきちたー。」
……なんとかおもちゃの町を抜けることができた。
ここまで来れば、アイスクリームはもうすぐだ!
「もうれーじょーこのとこ、きたの!」
あとは扉を開けるだけ!
「んー……!よいちょー!」「……あかないー。」
どうやら、冷凍庫の扉が重過ぎてこの子には開けられなかったようだ。
「むー!」
諦めかけたそのとき……。
突然扉が開いた。
「なにやってるの?」「!!ニンゲンしゃん?!」
「ここにはなにもないよ?」「あいちゅは?」
「アイス……?あぁ、これ?」「!」
「食べる?」「ん!たべたいー!」「いいよ。」
「これ、ニンゲンしゃんの……。」
「ん?これ、おちびのだよ。前みんなで食べようと思ってたけど、その時おちびだけ寝てたから、起こすのもどうかと思って、ふたりで食べたんだ。」「へー。」
「ほら、スプーン。」「ありがと。」
「いただきまーちゅ!」「どうぞ。」
「いちごあじ!おいちい!」「よかったよかった。」
「ニンゲンしゃん!ありがと!」「どういたしまして。」
「こんどはいっちょにたべようね!」「うん、そうだね。」
無事にアイスクリームを食べられたこの子は、そのあとすぐにお昼寝を始めて、夢の世界へと旅立ったそう。
おしまい。
「春恋」「遠くの声」(4/15、16)
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「春恋」
春。こころ弾む季節。
鮮やかなたくさんのいろ達が、街を彩る。
あか、しろ、きいろ。
恋。こころのいろどり。
あなたを想うだけで、こころに春が来る。
さくら、こもれび、そよかぜ。
こころが冷たくなったら、恋をしよう。
だれかに、なにかに。
春よ、こいこい。
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「遠くの声」
声が聞こえる。どこか遠くで。
私を呼んでいる。どこかで呼んでいる。
私を呼ぶあなたは、誰?
私は忘れてしまった。あなたを、私のすべてを。
心のどこかで消えゆくあなたが私を呼んでいる。
「忘れないで」と、叫んでいる。
あなたが遠ざかっていく。
あなたが消えていく。
虚空を見つめる私は、あなたを忘れた私は。
誰?
考える間もなく、風が悲しみをさらっていった。
「未来図」
未来。みらい。
想像するだけで恐ろしくなる。
今をなんとかやり過ごすだけでやっとだというのに、これから起こることについて考えるともなれば、さぞかし苦しくなるだろう。
僕が今いちばんに望むことは、僕という一人間の存在を、この世から跡形もなく消し去ることだけだ。
誰からも忘れ去られ、まもなく塵と化す。
どれだけ身軽だろうか。
どれだけ楽、だろうか。
でも。
僕は今こうしてことばを遺そうとしている。
願いに反して、なぜか、こんなことをしている。
どうしてこんなことを?
なぜ僕は、誰かの見る場所で、ことばを綴る?
気まぐれかもしれない。
それとも自己満足だろうか。
でも、僕は、僕はどこかで生きることを願っている。
死という全てを飲み込む、甘い優しさに身を任せずに。
生きようとしている。
理由はわからない。
未来を見なければ、わからない。
わからないままだけれど、せめて。
笑っていられるような場所にいられたらいいな。
「風景」「ひとひら」(4/12、13)
川のある風景。
君の手には丸くて平べったい小石がひとひら。
うまく投げれば水面を飛びそうだ。
花のある風景。
君の髪に桜の花びらがひとひら。
春は君を彩る季節みたいだ。
海のある風景。
君の足元に白い貝殻がひとひら。
海は君を静かに呼んでいる。
全てをなくした風景。
君の手に壊れた世界の欠片をひとひら。
世界が遺した形見を、君はじっと見つめていた。
君だけがいる風景。
小さな君のてのひら。
かつて見た花のようだ。
この世界には、君さえいればいい。
たとえ壊れても、何度だって作り直せばいいだけだから。
だから。
君はずっと、そばにいてね。
「君と僕」
君と僕はずーっと一緒。
太陽と月。白と黒。
正反対だけど、いや、だからこそ一緒にいるんだ。
あたたかい君と一緒にいられるのなら。
僕はどこへだって行ける。
そんな気がする。