「帽子かぶって」
私に傷はない。
だから、どんな格好でも大丈夫。
頭に石を投げられる。
あざができる。
帽子かぶってあざ隠す。
腕にたくさん針刺さる。
穴が開く。
カーディガン着て穴隠す。
氷の刃が足貫く。
傷ができる。
黒いズボンで傷隠す。
彼らは、あなたは嘲笑う。
ぼろぼろ私を嘲笑う。
それでも私は大丈夫。
もっともっと隠せるから。
いろんなもので、隠すから。
私を。
私のあざを。
私の穴を。
私の傷を。
私の───を。
「小さな勇気」
私には好きな音楽クリエイターがいます。
ついこの間、彼女のファンクラブに入りました。
入ろう、入ろうと思ってなかなか踏み出せなかった一歩をやっと踏み出したのです。
そこには、たくさんのうつくしい投稿がありました。
彼女の歌のプロトタイプや未公開の音源、やさしいメッセージがたくさん、たくさんありました。
私はすごく感動したので、勇気を持って新しい投稿にコメントを残してみました。はじめはファンの方からいいねをもらいました。
それだけでも嬉しいのに、なんと……。
数日経ったあと、クリエイター本人からいいねをもらうことができたのです!
正直言ってめちゃくちゃ自慢です……すみません……が、あまりにも嬉しすぎてこれは家宝だ!!!宝だ!!!と心の中で叫びました!
ほんの少しの勇気が大きな幸せを招く、ということを長い時間はかかってしまったものの、やっと理解できたような気がします!
皆さんのところにも、幸せが訪れますように……!
「わぁ!」
今日も賑やかな一日が始まる。
「ニンゲンしゃん!あしょぼー!ボクあしょびたいー!」
「はいはい。朝ごはん食べてからなー。」
「はい!はいっかい!だよー!」
「ニンゲンくん!朝ごはんならもう出来ているよ!食べるだろう?ほら!はやく座って座って!」
「わぁ!あしゃごはんなのー!」
小さい子は何見てもいい反応するよな。
……なんだか羨ましい。
「ニンゲンしゃー!だっこ!おいしゅ!おしゅわりなの!」
「はい。」「ありがと!」
朝ごはんのおにぎりを嬉しそうにもぐもぐしている。
「⬜︎⬜︎のはツナマヨだよー!」「ちゅなまよ?おいちい!」
「ちなみにボクのは明太子だよ!」「わぁ!めんたいこ!」
「おにぎりおいちいね!⬛︎⬛︎ちゃ、ありがと!」
「ふふふ……(我が兄ながらかわいい……)!」
その後も、平穏で賑やかな日常は続く。
おもちゃで遊んだり、絵を描いてみたり。
小さな機械のこどもはいつも笑顔だ。
「ニンゲンくん!今日は大変だっただろう?⬜︎⬜︎は、たくさん遊んで夕方なのに寝てしまった!きっととっても楽しかったんだろうね!どうもありがとう!」
「あ……言うほどでもないよ。」
「いや、随分と助かっているよ!」
「ね、⬜︎⬜︎。」
自分に抱っこされて眠っているきょうだいに聞いている。
「わぁ、んむー……。」
「……なんて言った?」「ありがとうっていってたよ!」
本当か……?
「まあいいじゃないか!それじゃあ、そろそろ晩ご飯の支度をするよ!キミもなにか手伝ってね!」
「はいはい。」「はいは一回だよ!」「はい。」
賑やかな一日も、そろそろ終わりそうだ。
明日も楽しく過ごせたらいいな……なんて思って、自分も晩ご飯を作り始めた。
「終わらない物語」
これは君が僕の名を呼んでくれるまで終わらない物語。
僕は妖精。名前を呼ばれると命が消える妖精。
あるときつまらなさそうにして歩く君を見かけたから、僕は揶揄うことにした。ついでに、やめて欲しけりゃ僕の名を呼んでみろと、そう言った。
はじめはいろいろ名前を人や花の名前を呼んでみた君。
楽しそうだった。
僕も楽しかった。
でも、だんだん君はこの森に来なくなった。
最後に来たのはいつだったろう。
いつまで僕を使う待たせるの?
何十年、何百年、僕の名前を呼ばないつもり?
ねぇ、僕の名前を呼んでよ。
いたずらも物語も終われないよ。
お願い、早く名前を呼んで。
僕の名前は───。
「やさしい嘘」
ピンポーン!
呼び鈴で飛び起きる。誰だよ!!朝3時だぞ?!!
……いや、こんな時間に来るなんて碌でもないやつに決まってる。そうであってくれ。無視でもしよう。
ピンポーン!
ああ、もう!
「……はい?あ。」「ニンゲンさん!おはようございます!」
「あー、おちびたちのお父さん。どうも。」
「で、何の用ですか?なんでこんな時間に?」
「すみません。あなたたちの世界での適切な訪問時間じゃなくて、私も驚いているところです。確かに『3時』を指定したはずなのに……おかしいな……。」
「もしかして、午前と午後とか間違えてません?」
「……?あっ!そんな指定もできたんですね!いつもそれっぽい時間を指定していたので!」
科学者なのに何となくで決めてたのかこの人。
「……おとーしゃーん?おかーえりー。」
眠い目をこすりながら、いつにも増してふわふわのおちびがベッドから出てくる。
「⬜︎⬜︎、ただいま!」「だっこ」「ん?」「ちて」「だっこー!」「よしよし。いい子だね。」「おとーしゃん、だいしゅきー。」「お父さんも大好きだよー!」「ん……。」
あっという間に眠ってしまった。
お父さんの抱っこ、すごいな。
「……こうやってこの子と触れ合えるのは、すごく幸せです。ニンゲンさん、この子を助けてくれてありがとうございました。」
「いえ、そんな。自分は何も……。」
「かつて、この子がウイルスに感染したとき……。私は何もできなかった。だから、最後の夜、嘘をつくことにしたんです。いや、そうするしかできなかった。」
「ほとんどのことを忘れてしまったこの子を悲しませないために、私と⬛︎⬛︎は、アーカイブとなる直前に言ったのです。」
「また明日ね。」
「……そう、言いました。」
「……。」
「あの時のこの子にはもう一生明日なんて来ないのに、そう思うとあまりにも悔しくて、悲しくてどうしようもなかった……!」
「きっと⬛︎⬛︎も、あの子も、そうだったでしょう。」
「でも、皆が力を合わせて助けてくれたお陰で、この子は生きている。こうやっていつも通り甘えてきて、かわいい寝顔を見せてくれる。明日を迎えられるんです。」
「おとーしゃー……。」「はーい。」
「この子、本当にあなたのことが好きなんですね。それもそうか。大事な家族ですから。」
「ふふっ。あなただってもはや私の子どもみたいなものですよ。こんな風に、こどもたちを大事にしてくださって、ね?」
「そういえば、あの子は、⬛︎⬛︎はどこに?」
「多分自分のベッドで寝てると思います。最近寒いからか、よく勝手に入って来るんですよね。」
「え?!あの子が……寝て……?!」「え、まぁ?」
「⬛︎⬛︎は、⬜︎⬜︎を失って以来、少なくとも私が見る限り眠ったことがありませんでした。」
「守りたいものを守って、後悔も消えて、心の底から安心したから、漸く熟睡できるようになったのでしょう。あなたのおかげですよ。本当にありがとう!」「いえ、どうも。」
「でも。」「?」「次来る時には昼間にしてくださいね?」
「……すみませんでした!」
「今日はここで失礼します。近日中にまた来ますね!」
「それでは、おやすみなさい。」「おやすみなさい。」
自分にこどもを託し、父親は帰って行った。
優しい家族がいてよかったね。
「ニンゲンしゃ、だいしゅきー……。」
……!かわいい寝言だ。
それじゃあ、自分もまた寝ようか。