「やさしい嘘」
ピンポーン!
呼び鈴で飛び起きる。誰だよ!!朝3時だぞ?!!
……いや、こんな時間に来るなんて碌でもないやつに決まってる。そうであってくれ。無視でもしよう。
ピンポーン!
ああ、もう!
「……はい?あ。」「ニンゲンさん!おはようございます!」
「あー、おちびたちのお父さん。どうも。」
「で、何の用ですか?なんでこんな時間に?」
「すみません。あなたたちの世界での適切な訪問時間じゃなくて、私も驚いているところです。確かに『3時』を指定したはずなのに……おかしいな……。」
「もしかして、午前と午後とか間違えてません?」
「……?あっ!そんな指定もできたんですね!いつもそれっぽい時間を指定していたので!」
科学者なのに何となくで決めてたのかこの人。
「……おとーしゃーん?おかーえりー。」
眠い目をこすりながら、いつにも増してふわふわのおちびがベッドから出てくる。
「⬜︎⬜︎、ただいま!」「だっこ」「ん?」「ちて」「だっこー!」「よしよし。いい子だね。」「おとーしゃん、だいしゅきー。」「お父さんも大好きだよー!」「ん……。」
あっという間に眠ってしまった。
お父さんの抱っこ、すごいな。
「……こうやってこの子と触れ合えるのは、すごく幸せです。ニンゲンさん、この子を助けてくれてありがとうございました。」
「いえ、そんな。自分は何も……。」
「かつて、この子がウイルスに感染したとき……。私は何もできなかった。だから、最後の夜、嘘をつくことにしたんです。いや、そうするしかできなかった。」
「ほとんどのことを忘れてしまったこの子を悲しませないために、私と⬛︎⬛︎は、アーカイブとなる直前に言ったのです。」
「また明日ね。」
「……そう、言いました。」
「……。」
「あの時のこの子にはもう一生明日なんて来ないのに、そう思うとあまりにも悔しくて、悲しくてどうしようもなかった……!」
「きっと⬛︎⬛︎も、あの子も、そうだったでしょう。」
「でも、皆が力を合わせて助けてくれたお陰で、この子は生きている。こうやっていつも通り甘えてきて、かわいい寝顔を見せてくれる。明日を迎えられるんです。」
「おとーしゃー……。」「はーい。」
「この子、本当にあなたのことが好きなんですね。それもそうか。大事な家族ですから。」
「ふふっ。あなただってもはや私の子どもみたいなものですよ。こんな風に、こどもたちを大事にしてくださって、ね?」
「そういえば、あの子は、⬛︎⬛︎はどこに?」
「多分自分のベッドで寝てると思います。最近寒いからか、よく勝手に入って来るんですよね。」
「え?!あの子が……寝て……?!」「え、まぁ?」
「⬛︎⬛︎は、⬜︎⬜︎を失って以来、少なくとも私が見る限り眠ったことがありませんでした。」
「守りたいものを守って、後悔も消えて、心の底から安心したから、漸く熟睡できるようになったのでしょう。あなたのおかげですよ。本当にありがとう!」「いえ、どうも。」
「でも。」「?」「次来る時には昼間にしてくださいね?」
「……すみませんでした!」
「今日はここで失礼します。近日中にまた来ますね!」
「それでは、おやすみなさい。」「おやすみなさい。」
自分にこどもを託し、父親は帰って行った。
優しい家族がいてよかったね。
「ニンゲンしゃ、だいしゅきー……。」
……!かわいい寝言だ。
それじゃあ、自分もまた寝ようか。
1/25/2025, 4:55:10 AM