Frieden

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1/26/2025, 11:30:02 AM

「終わらない物語」

これは君が僕の名を呼んでくれるまで終わらない物語。
僕は妖精。名前を呼ばれると命が消える妖精。

あるときつまらなさそうにして歩く君を見かけたから、僕は揶揄うことにした。ついでに、やめて欲しけりゃ僕の名を呼んでみろと、そう言った。

はじめはいろいろ名前を人や花の名前を呼んでみた君。
楽しそうだった。
僕も楽しかった。

でも、だんだん君はこの森に来なくなった。
最後に来たのはいつだったろう。

いつまで僕を使う待たせるの?
何十年、何百年、僕の名前を呼ばないつもり?

ねぇ、僕の名前を呼んでよ。
いたずらも物語も終われないよ。

お願い、早く名前を呼んで。

僕の名前は───。

1/25/2025, 4:55:10 AM

「やさしい嘘」

ピンポーン!

呼び鈴で飛び起きる。誰だよ!!朝3時だぞ?!!
……いや、こんな時間に来るなんて碌でもないやつに決まってる。そうであってくれ。無視でもしよう。

ピンポーン!

ああ、もう!

「……はい?あ。」「ニンゲンさん!おはようございます!」
「あー、おちびたちのお父さん。どうも。」
「で、何の用ですか?なんでこんな時間に?」

「すみません。あなたたちの世界での適切な訪問時間じゃなくて、私も驚いているところです。確かに『3時』を指定したはずなのに……おかしいな……。」

「もしかして、午前と午後とか間違えてません?」
「……?あっ!そんな指定もできたんですね!いつもそれっぽい時間を指定していたので!」

科学者なのに何となくで決めてたのかこの人。

「……おとーしゃーん?おかーえりー。」
眠い目をこすりながら、いつにも増してふわふわのおちびがベッドから出てくる。

「⬜︎⬜︎、ただいま!」「だっこ」「ん?」「ちて」「だっこー!」「よしよし。いい子だね。」「おとーしゃん、だいしゅきー。」「お父さんも大好きだよー!」「ん……。」

あっという間に眠ってしまった。
お父さんの抱っこ、すごいな。

「……こうやってこの子と触れ合えるのは、すごく幸せです。ニンゲンさん、この子を助けてくれてありがとうございました。」
「いえ、そんな。自分は何も……。」

「かつて、この子がウイルスに感染したとき……。私は何もできなかった。だから、最後の夜、嘘をつくことにしたんです。いや、そうするしかできなかった。」

「ほとんどのことを忘れてしまったこの子を悲しませないために、私と⬛︎⬛︎は、アーカイブとなる直前に言ったのです。」

「また明日ね。」

「……そう、言いました。」
「……。」

「あの時のこの子にはもう一生明日なんて来ないのに、そう思うとあまりにも悔しくて、悲しくてどうしようもなかった……!」
「きっと⬛︎⬛︎も、あの子も、そうだったでしょう。」

「でも、皆が力を合わせて助けてくれたお陰で、この子は生きている。こうやっていつも通り甘えてきて、かわいい寝顔を見せてくれる。明日を迎えられるんです。」

「おとーしゃー……。」「はーい。」
「この子、本当にあなたのことが好きなんですね。それもそうか。大事な家族ですから。」

「ふふっ。あなただってもはや私の子どもみたいなものですよ。こんな風に、こどもたちを大事にしてくださって、ね?」

「そういえば、あの子は、⬛︎⬛︎はどこに?」
「多分自分のベッドで寝てると思います。最近寒いからか、よく勝手に入って来るんですよね。」

「え?!あの子が……寝て……?!」「え、まぁ?」
「⬛︎⬛︎は、⬜︎⬜︎を失って以来、少なくとも私が見る限り眠ったことがありませんでした。」

「守りたいものを守って、後悔も消えて、心の底から安心したから、漸く熟睡できるようになったのでしょう。あなたのおかげですよ。本当にありがとう!」「いえ、どうも。」

「でも。」「?」「次来る時には昼間にしてくださいね?」
「……すみませんでした!」

「今日はここで失礼します。近日中にまた来ますね!」
「それでは、おやすみなさい。」「おやすみなさい。」
自分にこどもを託し、父親は帰って行った。

優しい家族がいてよかったね。
「ニンゲンしゃ、だいしゅきー……。」
……!かわいい寝言だ。

それじゃあ、自分もまた寝ようか。

1/24/2025, 9:59:47 AM

「瞳を閉じて」

私は輝く生命 やさしい光を放つまっしろ生命
今日も平和に暮らします
温かい日差しのなか しあわせに暮らします

今日は黒い雨が降ります
少し寒い空気のなか 少しさみしく暮らします
それでもまだまだ しあわせです

今日も黒い雨が降ります ずっとずーっと降り続きます
かたい雨に心を踏み躙られます
いたくていたくて かなしいよ

まっしろだったわたしは 瞳を閉じてしまいました
もうひかりません 笑いもしません
そしてもう いきもしません

代わりに真っ黒なめが 真っ黒ないのちが
私からぎょろりと芽吹きました

あの頃の私はもういません

真っ黒で歪んだ私が
世界を滅ぼすのです

1/23/2025, 9:47:40 AM

「あなたへの贈り物」

文通相手のあなたへ

ここでもこっそりあなたへのメッセージを書こうと思います。
あなたがここを見ていないのを知っているから、私の気持ちを残すにはいい場所だと思って、書きます。

はじめに、私との文通を喜んでくださり、本当にありがとうございます。私はずっと文章を通じて誰かとつながりたいと思っていました。だから文通は憧れだったのです。

初めてあなたから手紙が来たとき、本当に嬉しかった。
日常のさびしさを忘れてしまえるくらいに、嬉しかった。

あなたは手紙と一緒に、詩集と絵と、小さな本を送ってくださいました。透き通るやさしい青が印象的な贈り物をくださったのです。

愛おしさを感じると同時に、私もお返しをしたいと思いました。
ですが、私はあなたのように美しい絵を描くことも、柔らかな言葉を紡ぐこともできません。

なので、あなたに気に入ってもらえたら、と思って、私の好きなアーティストのCDと、地元でつくられたものたちを送りました。

あなたは喜んでくださったのでしょうか?
もしそうであれば、これ以上に幸せなことはありません。

いつかまた、お手紙を送ってくださいね。

ほんとうにありがとう。

1/22/2025, 3:49:01 AM

「羅針盤」

ここは宇宙の星の海 水面がひかりを跳ね返す
今日はどこかに行こうかな どこか遠くに行こうかな

これは宇宙の羅針盤 
アンティキティラの機械より
もっともおっと精巧だ どんな機械より精巧だ

今日は火の星目指そうか 熱いあの星目指そうか
炎は舟をきっと焼く 近づきすぎては危ないぞ

吸い込まれるよに 火の星を
目指して進んで一直線

強いひかりが見えてきた 水面が爛々ひかってる
光を指してる羅針盤 やはりとっても精巧だ

綺麗な火の星見えました 熱い火の星見えました
ほんとは触れてしまいたい だけど熱くてさわれない

次は丈夫な方舟を 羅針盤載せた方舟を
トントン作って用意して もっと近くで火の星を

じっくりじっくり見たいのです
じっくりじっくり見たいのです

今度はどこへと向かおかな 氷の星へと行こうかな

ぼくの冒険終わらない ずっとずうっと終わらない
この羅針盤ある限り 冒険の日々は続きます

羅針盤載せたこの船と ずうっと冒険いたします

今度はどこへと向かおかな
今度はどこへと向かおかな

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