「あの夢の続きを」
私の大事な息子たちの面倒を見てくれているニンゲンさん。
このひとには感謝しかない。
私のせいで苦しめてしまった小さな子。
私のせいでひとりぼっちにしてしまったもう一人の子。
そんな子どもたちに、居場所をくれた。
そんなニンゲンさんのおかげで、あの夢の続きを見ることが、夢のような暮らしの続きを送ることができている。
あどけない「またあちたね」という永遠の別れの言葉で終わりを告げたと思われた、あの暮らしを、こうしてまた今日も送ることができているんだ。
私たちを救ってくれたその人は、ふと私に聞いてきた。
「あの、どうして子どもたちを自分から抱っことかしないんですか?」
「……それは、あまりにも可愛すぎて離せなくなってしまうからです。」「ニンゲンさんも、かわいい猫ちゃんがいたらずーっと触っていたいでしょう?それとおんなじです。」
「おとーしゃん」「うん?」「だっこ」
「……どうするんですか?」「抱っこするに決まっているじゃないですか!!」「んー!だっこ!うれちいの!」「よしよーし❤︎」
「……本当に好きなんですね。」
そのとき、ふと視線を感じる。
「お父さん……いくら⬜︎⬜︎が小さくてかわいいからってさあ!!!ボクのことをほったらかしにするなんて───?!」
「はいはい、だっこだっこ。」「ちょ、ニンゲンくん?!キミが!!!ボクを!!!だっこ?!!」「気に食わないか?」「そんなわけなかろうよ?!!」
「ニンゲンさん。」「はい?」「本当に、本当にありがとうございます。あなたのおかげでこの子たちは……もう寂しい思いをしなくて済む。どれだけ嬉しいことか……!」
「ですから、ニンゲンさん。」「あなたはもっと自分に自信を持ってください。そして、この子たちと同じくらい、自分を愛してください。」
「その通りだよニンゲンくん!もっと自分を大事にね?!」
「はい、頑張ります。」
「よかった!その調子で、自分を愛するんですよ!」
「それでは!一旦本部に戻りますね。」
「……お父さん宛に連絡が結構来ていたみたいだね。」
「むにゃ……おとーしゃん、がんばてねー……。」
「うぅ……戻りたくない……。」
そう言いながら、渋々家をあとにしていった。
自分を愛して……か。
そんなことできるのかな。
なんて思いながら、遊びだした子どもたちを見つめていた。
「あたたかいね」
はぁ……こたつって暖かい……。
だんだん眠くなってきた……。
「ニンゲンしゃ?ねんね……?」
小さな子どもが胸元にするりと入り込んでくる。
「ん?……ちょっと眠くてね……。」
「ん。ニンゲンしゃんのとこ、あったかい。」
ぎゅっと抱きしめられた。かわいい……。
「んー。むー……。」
そのまま寝てしまった。
さて、自分も寝ちゃおうかな。
「ニンゲンさん、こたつ?っていいですね。私も入っていいですか?」おちびたちの父親もこたつに入ってきた。
……こたつってすごいな。
「お父さんまで!全く……こたつってあたたかいね。」
弟まで来た。
みんなこたつに吸い込まれて、全く……。
……気がつけば夕方。もうそろそろ晩御飯の時間か?
でも、みんなまだ寝てる。
じゃあ、自分ももうちょっと寝るかな。
おやすみなさい。
「未来への鍵」
今日もいい天気だ。眠いけど買い物にでも行くか。
家を出て見慣れたいつもの道を歩く。ここの家の水仙はいつもきれいだ。
さて、そろそろスーパーに───。
強い衝撃とともに、視界が暗転する。
どうやら何か大きなものにぶつかったらしい。
痛い、と思っている間もなく、僕は意識を失ってしまった。
。oOo。.:*:.。oOo。.:*:.。oOo。.:*:.。oOo。.:*:.。oOo。.:*:.。oOo。.:*:.
……起きてください、起きてください!
誰かが僕を呼ぶ声が聞こえる。
ここは……明らかに病院ではない。真っ暗な空間だ。
そこに、女か男かもわからないひと?が立っている。
誰だ……この人は?というか、ここはどこなんだ?
「ここはこの世とあの世の狭間です。」謎のひとが答える。
「あなたは何者なんですか?」「良い質問ですね。」
池〇彰みたいなこと言うんだこの人。
「私は、何者でもありません。しいて言うなら死神、とでもいうべきでしょうか。」
「ああ、僕は死んだからあの世に連れて行こうって話ですか。」
「おや、勝手に決めつけるのは少々失礼では?」
「あなたは本来、まだ死ぬはずはなかった。つまり誤って命を落としかけているということです。この世であろうがなかろうが、事故は起きてしまうというものですね。」
「そのため、お詫びとして未来への鍵をお渡ししようと思います。」「未来への鍵……?なんですかそれ。」
「名前の通り、無限にある未来を拓くための鍵です。」
「例えば……これを見てください。」
そう言って宝石で飾られた立派な鍵を見せてくる。
「これは見た目通り、華やかな人生を送れる鍵です。あちらにある扉を開けることができるのです。」
その後、遠い場所を見つめながらこう言った。
「ただし、この鍵を使ったら最後、後戻りはできません。この鍵と扉はとても立派ですが、実はとても脆い。お金を得られる代わりに、健康に長生きはできません。」
「ってことは……。」
「そうです。自分の欲望に付き従った鍵を選べば、身を滅ぼす可能性も否定できません。」
「何だよ、もっと都合のいい鍵はないんですか?お金持ちになれて、健康に長生きできて、社会的にも成功できるみたいな、そんな鍵は!」
「なくはない、とだけ言っておきます。ただし、どれがそうなのかは私にも分かりません。なぜなら、そう言った鍵は往々にして控えめな見た目をしているからです。」
「なるほど……?」
「それでは、未来への鍵をお選びください。」
……迷うな。どうしたもんか。
僕は暫く迷った末、地味で丈夫そうなものを選んだ。
自分の人生だ。ラッキーなことばっかり都合よく起こればいいけど、多分それじゃあ楽しくない。そういう幸せは自分で掴むもんだろ。だからこそ、あえて地味なのを選んだんだ。
「……なるほど。」「なんですか?」「いえ、何も。」
「それでは、もう鍵はお渡ししたので、私はもう戻りますね。それでは、よき人生を!」
「え、ちょっと!」
その言葉を聞いた途端、強い光に包まれて、気づけばスーパーの前に立っていた。
……今のはなんだったんだろう。白昼夢か?
にしても不思議な時間だった。
……いい人生が送れるといいな。
そう思って、僕はいつも通り買い物をした。
「星のかけら」
……おや、こんな森の奥深くまでよく来られましたね。
ようこそ、私の隠れ家に。
今日はどのようなご用で?
……なるほど、そういうことでしたか。
それなら、きっとこれがいい。
これは、星のかけらを集めて作ったチョコレートです。
きらきらしていて、美しいでしょう。
……食べられるんですよ?
気持ちと祈りを込めて星のかけらを頂くと、星の加護が得られると言われています。
お悩みのあなたにぴったりのお菓子だと思って、このチョコレートをお出ししました。
さあ、遠慮なくお召し上がりください。
どうですか?甘くて美味しいでしょう。
……どうかしましたか?
後ろの棚に置いてあるそれが星のかけらなのか、ですか?
ふふふ、これはただの金平糖です。
ですが、あなたにお渡ししたのは本物の星のかけらですからご安心を。
……もう外も真っ暗です。そろそろお帰りになられては?
私も、この森も、いつでも待っていますよ。
だからまたいつか、おいでください。
「Ring Ring...」
Ring Ring... 音が聞こえる
頭の中に数多の音が聞こえる
この音はなんの音だろう?
おばあちゃん家の古い黒電話?
話し声は聞こえない
沈黙だけが聞こえる
寒さに抵抗するコオロギの歌?
虫の声は聞こえない
冷たい風の音だけが聞こえる
季節外れのサンタクロース?
子どもの笑い声は聞こえない
黒いノイズだけが聞こえる
へたくそなリストのラ・カンパネラ?
ピアノの音は聞こえない
歯車が壊れる音だけが聞こえる
頭痛の音?
苦しむ声は聞こえない
いやに甲高い頭の悲鳴だけが聞こえる
この音はなんの音だろう?
もうとっくに答えがわかっているはずなのに、何度も何度も自分の頭に聞いてみる。
この音は冷たく固まった私の頭の中で、これまた冷たく縮んだ中身がたてる音。
助けを求めて出す、私の悲鳴。
どこにも届かない、私の悲鳴。
Ring Ring...
この音が聞こえたなら、どうか───
わたしをたすけて?