「未来への鍵」
今日もいい天気だ。眠いけど買い物にでも行くか。
家を出て見慣れたいつもの道を歩く。ここの家の水仙はいつもきれいだ。
さて、そろそろスーパーに───。
強い衝撃とともに、視界が暗転する。
どうやら何か大きなものにぶつかったらしい。
痛い、と思っている間もなく、僕は意識を失ってしまった。
。oOo。.:*:.。oOo。.:*:.。oOo。.:*:.。oOo。.:*:.。oOo。.:*:.。oOo。.:*:.
……起きてください、起きてください!
誰かが僕を呼ぶ声が聞こえる。
ここは……明らかに病院ではない。真っ暗な空間だ。
そこに、女か男かもわからないひと?が立っている。
誰だ……この人は?というか、ここはどこなんだ?
「ここはこの世とあの世の狭間です。」謎のひとが答える。
「あなたは何者なんですか?」「良い質問ですね。」
池〇彰みたいなこと言うんだこの人。
「私は、何者でもありません。しいて言うなら死神、とでもいうべきでしょうか。」
「ああ、僕は死んだからあの世に連れて行こうって話ですか。」
「おや、勝手に決めつけるのは少々失礼では?」
「あなたは本来、まだ死ぬはずはなかった。つまり誤って命を落としかけているということです。この世であろうがなかろうが、事故は起きてしまうというものですね。」
「そのため、お詫びとして未来への鍵をお渡ししようと思います。」「未来への鍵……?なんですかそれ。」
「名前の通り、無限にある未来を拓くための鍵です。」
「例えば……これを見てください。」
そう言って宝石で飾られた立派な鍵を見せてくる。
「これは見た目通り、華やかな人生を送れる鍵です。あちらにある扉を開けることができるのです。」
その後、遠い場所を見つめながらこう言った。
「ただし、この鍵を使ったら最後、後戻りはできません。この鍵と扉はとても立派ですが、実はとても脆い。お金を得られる代わりに、健康に長生きはできません。」
「ってことは……。」
「そうです。自分の欲望に付き従った鍵を選べば、身を滅ぼす可能性も否定できません。」
「何だよ、もっと都合のいい鍵はないんですか?お金持ちになれて、健康に長生きできて、社会的にも成功できるみたいな、そんな鍵は!」
「なくはない、とだけ言っておきます。ただし、どれがそうなのかは私にも分かりません。なぜなら、そう言った鍵は往々にして控えめな見た目をしているからです。」
「なるほど……?」
「それでは、未来への鍵をお選びください。」
……迷うな。どうしたもんか。
僕は暫く迷った末、地味で丈夫そうなものを選んだ。
自分の人生だ。ラッキーなことばっかり都合よく起こればいいけど、多分それじゃあ楽しくない。そういう幸せは自分で掴むもんだろ。だからこそ、あえて地味なのを選んだんだ。
「……なるほど。」「なんですか?」「いえ、何も。」
「それでは、もう鍵はお渡ししたので、私はもう戻りますね。それでは、よき人生を!」
「え、ちょっと!」
その言葉を聞いた途端、強い光に包まれて、気づけばスーパーの前に立っていた。
……今のはなんだったんだろう。白昼夢か?
にしても不思議な時間だった。
……いい人生が送れるといいな。
そう思って、僕はいつも通り買い物をした。
「星のかけら」
……おや、こんな森の奥深くまでよく来られましたね。
ようこそ、私の隠れ家に。
今日はどのようなご用で?
……なるほど、そういうことでしたか。
それなら、きっとこれがいい。
これは、星のかけらを集めて作ったチョコレートです。
きらきらしていて、美しいでしょう。
……食べられるんですよ?
気持ちと祈りを込めて星のかけらを頂くと、星の加護が得られると言われています。
お悩みのあなたにぴったりのお菓子だと思って、このチョコレートをお出ししました。
さあ、遠慮なくお召し上がりください。
どうですか?甘くて美味しいでしょう。
……どうかしましたか?
後ろの棚に置いてあるそれが星のかけらなのか、ですか?
ふふふ、これはただの金平糖です。
ですが、あなたにお渡ししたのは本物の星のかけらですからご安心を。
……もう外も真っ暗です。そろそろお帰りになられては?
私も、この森も、いつでも待っていますよ。
だからまたいつか、おいでください。
「Ring Ring...」
Ring Ring... 音が聞こえる
頭の中に数多の音が聞こえる
この音はなんの音だろう?
おばあちゃん家の古い黒電話?
話し声は聞こえない
沈黙だけが聞こえる
寒さに抵抗するコオロギの歌?
虫の声は聞こえない
冷たい風の音だけが聞こえる
季節外れのサンタクロース?
子どもの笑い声は聞こえない
黒いノイズだけが聞こえる
へたくそなリストのラ・カンパネラ?
ピアノの音は聞こえない
歯車が壊れる音だけが聞こえる
頭痛の音?
苦しむ声は聞こえない
いやに甲高い頭の悲鳴だけが聞こえる
この音はなんの音だろう?
もうとっくに答えがわかっているはずなのに、何度も何度も自分の頭に聞いてみる。
この音は冷たく固まった私の頭の中で、これまた冷たく縮んだ中身がたてる音。
助けを求めて出す、私の悲鳴。
どこにも届かない、私の悲鳴。
Ring Ring...
この音が聞こえたなら、どうか───
わたしをたすけて?
「追い風」
僕にとって君は、いつも背中を押してくれる温かい追い風みたいな存在だった。
不安な時、迷っている時、どんな時でも一緒にいてくれて、僕はとても、とても幸せだった。
君がいてくれるだけで、それだけでよかった。
でも、僕は君のことが好きな自分に夢中で、君の気持ちに気づかなかった。君が苦しんでいることに、気づけなかった。
あんなに好きだったのに。
君は僕の行けないところに行ってしまった。天国とか地獄なんて呼ばれているところに、行ってしまった。
最後に君が見せたのは、いつもと変わらない笑顔だった。
また明日って言ったのに。
もう二度と会えなくなってしまった。
今、僕の背中を押すのは、冷たい追い風。
君を追うための、冷たく強い追い風。
今まで、辛い思いをさせてごめん。
でも、安心して。
もうすぐ、そっちにいくからね。
「君と一緒に」
「ニンゲンくん!」……なんだよこんな寝る前に。
「おや、眠たかったかい?すまないね!」
「少しだけ、聞いてくれないかな?」
「ニンゲンくん、いつもありがとうね。」
な、なんだよ急に。
「ふふっ、お礼を言ってみたかっただけさ!」
「初めて会ってからしばらくは素っ気なかったけれど、一緒にいるうちに随分優しくなったよねぇ。」
優しく……なったんだろうか。全然自覚がないけど。
「ボクも、キミと一緒にいるうちになんだか心が柔らかくなっていくような、なんだか懐かしい気持ちが芽生えてきたんだよ。」
「キミのおかげで⬜︎⬜︎もずっとご機嫌なうえ、お父さんにまで会える場所が確保できた。嬉しいことこの上ないよ。」
「だから、これからも一緒にいてほしいな。」
「……いいかな?」
……好きにしたらいいよ。
こっちこそ、色々ありがとう。
これからも、よろしく。
「えへへっ!これからもよろしくね!」
「あっ、もう眠いんだったね!おやすみ。ゆっくり寝るんだよ!」
おやすみ。
これからも一緒にいたい、なんて言われたのは初めてだ。
……ちょっと嬉しい。
こちらこそ、これからもよろしく。