「手を繋いで」
「ニンゲンしゃーん!」「……なに?まだ朝5時半だよ……?もうちょっと寝かせてくれ……。」「おしゃんぽのじかんでーす!」「あと2時間くらい待って…… ?」「やっ!やー!」
「おや、ニンゲンくん!今日は早いね!どうかしたのかい?」「まだ起きてないの、見てわからないか?」「分かってるって!なにか手伝えるかなぁと思ってねえ!」
「⬜︎⬜︎、ニンゲンくんを叩き起こしちゃダメだよ?」「やー!むぅー!」「……分かった分かった……。散歩……行こうな……。」「やたー!」「なんか……申し訳ないね……。」
寝ぼけた頭で身支度を整える。……しまった、ジーンズを被るところだった。こんな調子で散歩なんかできるのだろうか。ちょっと心配になってきた……。
「おちびのお兄ちゃん、そろそろ出ようか。」「んー!」「心配だからボクも一緒に行くよ。」「⬛︎⬛︎ちゃんもごーごー!なの!」「よしよし。」「えへへー!」
「⬛︎⬛︎ちゃん!ニンゲンしゃん!」「「?」」「おてて!ちゅなぐ!」「はい、おてて!」小さな手をこちらに差し出してきた。柔らかくて暖かい。
「ニンゲンしゃのおてて、おっきい!」「そのうちお兄ちゃんの手も大きくなるよ。」「ほんと?!やたー!」「……ニンゲンくんと⬜︎⬜︎が仲良しでよかったよ。」「なかよち!うれちいの!」
「ところで、今日はどこまで行くんだい?」「んー。わかんない!」「何にも決めていないのかい?!……それじゃあ、山に紅葉を見に行こうか。……暗いけどね。」
「今は暗いけど、朝焼けが綺麗かもしれないな。多分。」「あしゃやけ?」「日の出の時間帯になると空が薄紫と茜に染まって美しいんだよ。⬜︎⬜︎もきっと気にいるはずさ!」
「あしゃやけ、たのちみなの!」嬉しそうにぶんぶんと手を振る。……元気いっぱいでかわいい。
「ニンゲンしゃん!おしゃんぽ、たのちいね!」「うん、楽しいね。」「ふふふ!キミたち、本当のきょうだいみたいだねえ!」「ニンゲンしゃんもボクのきょうだい?!」「違うよ。」
「でも、こんなかわいいきょうだいがふたりもいたら、自慢できちゃう気がするよ。自分はそう思う。」「ニンゲンしゃん!」「ふふふ……今日はなんだか優しいねぇニンゲンくん!」
「ボクのことなら!!!いくらでも!!!自慢してくれて!!!構わないよ!!!」「はいはい。」「照れているのかい?!!キミにも可愛いところがあるんだねえ!!!実に興味深い!!!」
うるさいな……。「悪かったって!」
「けんかは、めんめだよ!」「け、喧嘩はしていないよ?!」「よかったー!」
「おや!ふたりとも!見てごらんよ!ここ、朝焼けがよく見えるよ!!」そう言っておちびの弟が右側を指差した。
薄い藤色で空は染まり、紅い雲が彩りを加える。
日の出が、山を、街を、全てを包んでいく。
そんな光景を、自分たちは手を繋ぎながら、静かに見つめていた。
「……きれい!きれい!あしゃやけ、きれいー!」
嬉しそうにはしゃいでいる。この子の白いほっぺたは、朝焼け色に染まっていた。
「⬜︎⬜︎に喜んでもらえてよかったよ!……それじゃあ、そろそろ家に帰ろうか!」「ん!」
正直、未だにちょっと眠い。
でも……早起きして、よかった。
そう思って、自分たちは朝日に照らされながら帰路についた。
「ありがとう、ごめんね」
「前回までのあらすじ」───────────────
ボクこと公認宇宙管理士:コードネーム「マッドサイエンティスト」はある日、自分の管轄下の宇宙が不自然に縮小している事を発見したので、急遽助手であるニンゲンくんの協力を得て原因を探り始めた!お菓子を食べたりお花を見たりしながら、楽しく研究していたワケだ!
調査の結果、本来であればアーカイブとして専用の部署内に格納されているはずの旧型宇宙管理士が、その身に宇宙を吸収していることが判明した!聞けば、宇宙管理に便利だと思って作った特殊空間内に何故かいた、構造色の髪を持つ少年に会いたくて宇宙ごと自分のものにしたくてそんな事をしたというじゃないか!
それを受けて、直感的に少年を保護・隔離した上で旧型管理士を「眠らせる」ことにした!
……と、一旦この事件が落ち着いたから、ボクはアーカイブを管理する部署に行って状況を確認することにした!そうしたらなんと!ボクが旧型管理士を盗み出したことになっていることが発覚したうえ、アーカイブ化されたボクのきょうだいまでいなくなっていることがわかった!そんなある日、ボクのきょうだいが発見されたと事件を捜査している部署から連絡が入った!ボクらはその場所へと向かうが、なんとそこが旧型管理士の作ったあの空間の内部であることがわかって驚きを隠せない!
……ひとまずなんとか兄を落ち着かせたが、色々と大ダメージを喰らったよ!ボクの右腕は吹き飛んだし、ニンゲンくんにも怪我を負わせてしまった!きょうだいについても、「倫理」を忘れてしまうくらいのデータ削除に苦しめられていたことがわかった。
その時、ニンゲンくんにはボクが生命体ではなく機械であることを正直に話したんだ。「機械だから」って気味悪がられたけれど、ボクがキミを……キミ達宇宙を大切に思っているのは本当だよ?
それからボクは弁護人として、裁判で兄と旧型管理士の命を守ることができた。だが、きょうだいが公認宇宙管理士の資格を再取得できるようになるまであと50年。その間の兄の居場所は宇宙管理機構にはない。だから、ニンゲンくんに、もう一度一緒に暮らそうと伝えた。そして、優しいキミに受け入れてもらえた。
小さな兄を迎えて、改めて日常を送ることになったボク達。しばらくのほほんと暮らしていたが、そんなある日、きょうだいが何やら気になることを言い出したよ?なんでも、父の声を聞いて目覚めたらしい。だが父は10,000年前には亡くなっているから名前を呼ぶはずなどない。一体何が起こっているんだ……?
もしかしたら専用の特殊空間に閉じ込めた構造色の髪の少年なら何かわかるかと思ったが、彼自身もかなり不思議なところがあるものだから真相は不明!
というわけで、ボクはどうにかこうにか兄が目を覚ました原因を知りに彼岸管理部へと「ご案内〜⭐︎」され、彼岸へと進む。
そしてついにボク達の父なる元公認宇宙管理士と再会できたんだ!
……やっぱり家族みんなが揃うと、すごく幸せだね。
そして、構造色の少年の名前と正体が分かったよ。なんと彼は、父が考えた「理想の宇宙管理士」の概念だった。概念を作った本人が亡くなったことと、ボク以外の生きた存在に知られていないことで、彼の性質が不安定だった原因も分かった。
ボクが概念を立派なものに書き換えることで、おそらく彼は長生きするだろうということだ。というわけで、ボクも立派に成長を続けるぞ!
─────────────────────────────
私は、私は漸く───公認彼岸管理士の資格を得られた。
これでやっとあの子達に会いに行ける。
……随分と待たせてしまったね。すまなかった。
「博士!」「どうしました?」「あ、あの……。公認彼岸管理士の資格取得おめでとうございます!」「ありがとう。」「これで仕事の幅が広がりそうだね!」「そうですね。嬉しいです。」
「せんせー!」「はい。」「これからも一緒だよね!ね?」「……。」「ぼく、せんせーと一緒にいたい!」「ありがとうございます。でも……ごめんなさい。」
「私も皆さんと一緒にいたいのはやまやまです。しかし、おそらく宇宙管理本部に移ることとなるでしょう。ですが、必ず会いに行きます。」「やだ!寂しいよー!」「先生……。」
「あなた達は絶対、大丈夫です!みんなで仲良くすることも、協力することも、全部できているではありませんか。私がここを離れても、上手に暮らしていけますよ。」
「寂しいのは私も同じです。それでも、未来に向かって暮らしていかなければいけない。それが私たちの使命です。」
「せんせー……。」「……泣かないでください。どれだけ離れていても、私たちは同じ世界を生きているのです。だから、永遠の別れはありません。」
「安心して眠って、いつも通り暮らしてくだされば、それだけでいいんです。」
「ほら、前を向いてください。私は、あなたたちをひとりにはしません。孤独にはしません。しばしの間会えなくなるだけです。」
「私とひとつ約束しましょう。これからも変わらず、ずっと元気で仲良く暮らしていってくださいね?」
「皆さん……ありがとう。」
「私はこれでここを発ちます。それでは───」
「行ってきます!」
「部屋の片隅で」
最近、うちに住み着いているおちびに落ち着きがない。
なんだ?腹でも痛いのか?一体どうしたんだろう。
「おちび、そろそろ寝るぞー。」
「あっ……ねんねもうちょっとあとなの、だめー?」
「夜だからお化けが来ちゃうよ?」「やー!」
どうもお化けは苦手らしい。幽霊は平気なのに、なんでだ?
「おばけ、こわいのー。」「じゃあ寝ような?」「ん。」
「ちょっとこわいから、だっこちて?」「はいはい。」
抱っこされているうちにいつの間にか眠ったみたいだ。
さて、もう寝るか。
こうして自分たちは眠りについた。
……何時間か経った後、どこからともなく音がすることに気づいた。何、どこから音が……?
最近は治安が良くないから少し不安になる。
周りを気にして、いろんな方向を見る。
暗いからよく見えない。……そういえばおちびは?
ベッドにいない。どこ行った?!
改めて部屋を探す……まもなく小さな子どもは見つかった。
部屋の片隅で、こちらに背を向けて何かしている。
え、こんな時間に……「何してるの?」「!!」
「夜更かしは良くないよ?」「……。」
「あ、あのね……。」「うん?」「しゃんたしゃんに、おてがみかいてるの。」「あ、そうなの。」「んー。」
「あのね、いいこにちてたら、しゃんたしゃんがね、ぷれぜんと くれるんだってー!⬛︎⬛︎ちゃんからきいたの!」「そっかー。」
「えとねー、ボクね……いいこ?」「?」「ボク わるいこ?」
「おちびはとってもいい子だよー。」「いいこ?」「うん、いい子。」「!!ニンゲンしゃん!ぎゅー!」「よしよし。」
「ところで、何が欲しいの?」「んー。ひみちゅだよー。」「そっかー。サンタさんへのお手紙は上手に書けた?」「んー!」「よかったね。それじゃ、もう寝ようか。」「ん!」
「おやすみ。」「ニンゲンしゃ、おやしゅみー!」
おちびが寝入ったのを確認して、こっそり手紙を見る。ごめんな。手紙には、多分こんなことが書かれていた。拙い字で一生懸命書いてあった。
さんたさん へ
ぼくの おとうとに、 ねるじかんを あげて ください。
ニンゲンさんに、 もっと わらって もらえる ものを ください。
ぼくは、 みんなが だいすきです。 だから、 もっと いっしょに いたいです。 こんどは いっぱい げんきに いいこで いさせて ください。
⬜︎⬜︎より❤︎
……そんなこと願わなくたって、これからもずっと……いや、君が望む限り、ずっと一緒にいるのに。
……なんてことを思いながら、自分もまた眠りについた。
「逆さま」
もしも私があの子だったら。
もしも昨日が今日だったら。
もしも今ごろ幸せだったら。
こんなこと、考えたことはありませんか?
現実は無情なので、いくらifを考えたところで無駄ですが……とある条件を満たせば、その「もしも」を現実のものにできる。
もしも、そんなことがあれば、あなたはどうしますか?
゚*.。.*゚*.。.*゚*.。.*゚*.。.*゚
今日も暇なのでネットサーフィン。
なんとなく怖い話を読みたくなって「都市伝説」なんていう雑いワードを検索。
すると、いきなり怪しげなサイトがヒット!
『発見!「逆さま」を呼び出す方法!』
「逆さま」を呼び出す方法……なんだそりゃ?
さかさまを呼び出す……なんて言われても、何が起こるかわかんないよ。
何、「逆さま」って。
面白そうだから読んでみるか。
ふむふむ……「このサイトにたどり着いたあなたは運がいい!」ほうほう……「『逆さま』はあなたのもしもを司る強い存在!」なるほど……「この情報は私とあなただけの秘密です!」……。
なんでこんなに勿体ぶるんだろう?
それだけ危険ということなのだろうか……?
まあいいや。やってみよう。
①携帯電話を2台用意する。
②手元の電話を通話状態にする。
③13秒目から話し始める。話の始め方→「逆さま、私の名前は〇〇です。私のもしもを見せてください。もしも〜〜なら、私は幸せですか?」
④話が終わったら、13秒待ったあとに電話を切る。
⑤鏡を見ると、逆さまが映る。逆さまが映ったらあなたの「もしも」が現実のものに!
……胡散臭い。似たような都市伝説が他にもあったような気がするし。やってみる価値あるんだろうか。
……でも、自分が欲まみれなのを知っているので試すしかない。
よし、やってみるか!
「携帯電話を2台」……よく考えたら意外と現代的だ。新しい神様なのかもしれない。
……通話状態にして、13秒待つ。
「さかさま、わたしのなまえは〇〇です。わたしのもしもをみせてください。もしもわたしが『さかさまにあえたなら』、わたしはしあわせですか?」
……話が終わったら、13秒待って電話を切る。
鏡を見る。特に何もない。
あ、失敗か。
「つまんね〜〜」とか言いながら後ろを振り向く。
天井に女か男かもわからない人がぶら下がって(?)いて変な声が出そうになった。
「あ、気づいちゃいました?どうもごきげんよう。私が──「逆さま?!!」「あ、ハイそうですが……ちょっとイントネーションが違いますね。」「は?」
「私は「さかさま」ではなく『逆(さ↑か)』。人呼んで「逆さま」です。どうぞよろしゅう。」
「110」「ん……?」「警察呼ぼうかな、と思って。」「ちょっと!!勝手に呼び出しておいて!!通報とは!!!なんたる無礼ですか?!!」「あ、ごめん不審者と間違えた」「えぇ……?」
「ほら、どうです?逆さまが直々に対応した時のお気持ちは!」「思ったよりうるさい」「すみません」「幸せでしょう?!」「えー……?」「幸せだと言いなさい!」「はいはい。」
「せっかく面白い「もしも」だと思ったらいきなり通報されそうになるなんて……。まあでもいつものよりマシか〜……。」
一体彼(?)はどんな「もしも」を聞いてきたんだろう。
「そういやなんだけど、逆さまはこんなとこで時間潰してて大丈夫なの?」
「えぇ。問題ありませんよ。我々は『逆』という組織ですから。ひとりで全部対応しているわけではありませんのでご安心を。」
「ふーん……。」
「ところで」「ん?」「どうです、私に会えて幸せですか?」
「全然。会うだけじゃ幸せにはなれん。」「そうですか……。」
「それでは、私はこれで失礼───「一個ぐらい願い叶えてけ!」「えー?!」「暇だから!」「えぇ……?我々はもしもを聞くだけですが、それでよければ……。」「いい話し相手ができた。」
「もしも逆さまがお前一人になったら、私は幸せですか?」
「ちょっと!!!それは聞かなかったことにしますからね?!!あまりにも非道ですから!!!」「え?つまんな。」「……。」
「それじゃあ!!!これで最後にしますから!!!もしもを言ってみなさい!!!」「うーん。」
「もしも……もしも逆さまと友達になれたら、私は幸せですか?」「……!」
「その願い、聞き届けました。それでは……。」
「……じゃあね、逆さま。」
〜〇日後〜
「おはようございます。突然ですが、編入生の紹介です。」
マジか。マジで来た。
「おはようございます。編入生の『逆』です。以後、お見知り置きを。」
逆さまと友達になったら。
自分はどうなるんだろう。
「おはようございます。どうですか?幸せですか?」
「眠れないほど」
疲れた。今日もとても疲れた。
しっかり眠れないほどに、疲れてしまった。
何にも疲れるような要素なんてないのに、どうしてこんなに?
自分でもよく分かっていない。
そんな時には自分自身に聞く。
何かあった時はこうやって、不貞腐れきったもうひとりの自分に尋ねてみる。
「何か嫌なことがあったの?」
「どうしてこんなに疲れているの?」
「その涙はなんで流れているの?」
他人事みたいに、聞いてみる。
もうひとりの自分はこっちを見ずに答える。
「分かってるくせに。なんで嫌なことほじくり返すかな。」
お互いのために聞く。だってどっちも私だから。
「疲れすぎて睡眠不足のスパイラルになってる。イライラする。」
「誰も話を聞いてくれない。」
「もはや理由もわからず泣いてる。」
こういう時は美味しいアイスとか、ハーブティーとか、好きな音楽で自分を甘やかして、ゆっくりする。
そして、好きなだけ眠る。
……いつもこんなふうに休みたいのはやまやまですが、そううまくいかないのが現実です……。
皆様も無理なさらず、寒さに負けずにお過ごしください。