「過ぎた日を想う」
博士。あなたがボク達を作り上げた日は、どんな気持ちだったんだい?嬉しかった?ほっとした?それとも───面倒だった、かな?
ボクは、いやボク達はすごく不思議な気持ちだった。
突然意識が芽生えて、知識も膨大にあって、感情もあって。
あなたが用意してくれたデータのお陰で、困ることはなかった。
不思議だったと同時に、とっても幸せだったよ。
色んな宇宙から持って帰ってくる変な食べ物も、おもちゃも、全部ぜーんぶ大好きだった。みんなで過ごすあの時間が、本当に大好きだったよ。
あなたも幸せそうで、ボクも嬉しかった。
でも、そう長くは続かなかったね。
あなたが作ったボクのきょうだいは未知のウイルスで記憶を徐々に消されて『過去のもの』にされた。
そういや、ボク達を作る前にあなたがした判断は賢明だったね。はじめはきょうだいをケアロボットに、ボクを仕事に特化した機械にしようとした。
そのままの計画だったら、無力なケアロボットが一台残っただけの世界があったのかもしれない。
それに気付いたあなたは、ボク達がふたりで助け合って生きていけばきっと寂しくないと考えたんだ。
そうして双子の機械が生まれた。
そしてすぐに片割れだけになった。
ボクだって悲しかったけれど、ボクもあなたと同じように、きょうだいの形の穴を塞ぐために研究に打ち込んだ。
そうして今から一万年前、とうとうあなたまでボクを置いて行ってしまった。
ボクは完全なる孤独な機械になってしまった。
失うのは当たり前のことなのに。
わかっていたことだったのにね。
でも、もう寂しくないよ。
ボクも今からそっちに行くからね。
色んなことを話したいんだ。
博士。あなたは、どんな顔をするだろうか。
「星座」
大好きだよ。君のことが。
前世も現世もずーっと、大好きだよ。
君の綺麗なところも、醜いところも、全部を愛しているよ。
これ以上愛することが出来ないくらい、好きで好きで、好きなんだよ?
でも君の死を愛で治すことはできない。
できないんだ。
だから君を星空に閉じ込めて、夜になったら星座になった君を見つめるんだ。
今、寂しいだろう?僕も寂しくて仕方ない。
でも、安心して。
もうすぐ僕も、君の一部になるから。
もうすぐ僕も、星になるから。
「踊りませんか?」
ねぇ、あなた。
私と踊りませんか?
世界の終わりを、踊りませんか?
ひとは回る。くるりくるり。
星は回る。きらりきらり。
宇宙も回る。ぐるりぐるり。
右に左に、くるくる。今度は逆にぐるぐる。
私と一緒に、回りましょう。
世界を一緒に、回しましょう。
全てを逆回転させてしまいましょう。
あなたが誰だっていい。全ての終焉を見届けましょう。
生きとし生けるものにも、命を持たぬものにも、いずれは終わりが来るの。
あなたにだって、いつか。
私は全てを終わらせるためにいるの。
御伽話も、神様も、宇宙という機構だって。
私が全て、終わらせるの。
だから、あなたが、私が満足するまで。
踊りましょう?
「巡り会えたら」
会いたい。
残してきてしまった子ども達に、会いたい。
ただの1分でも、1秒でも、ほんの刹那でもいい。
なんだっていい。ただただ、会いたい。
生命体と機械という、血の繋がりすらない者同士だった。
それでも、双子の片方は2年、もう片方は700兆年もの間、私のことを科学者ではなく、「父親」として慕ってくれた。
生きていた頃、それはそれは苦しかった。
生き物の世に未練もあるが、それ以上に亡き者たちへの後悔が大きい。生きている間も今も、たくさんの贖罪を己に課してきた。
そんな中、あの子達は純粋に、私のことを幸せにしてくれた。
あの頃は全てを忘れてしまいそうになる程に、幸せだった。
だからせめて、感謝を伝えたい。名前を呼びたい。
あの時のように、もう一度、名前を呼びたい。
どうかどうか、また巡り会えたなら。
どれだけ幸せだろうか。
「奇跡をもう一度」
「前回までのあらすじ」───────────────
ボクこと公認宇宙管理士:コードネーム「マッドサイエンティスト」はある日、自分の管轄下の宇宙が不自然に縮小している事を発見したので、急遽助手であるニンゲンくんの協力を得て原因を探り始めた!!!お菓子を食べたりお花を見たりしながら、楽しく研究していたワケだ!!!
調査の結果、本来であればアーカイブとして専用の部署内に格納されているはずの旧型宇宙管理士が、その身に宇宙を吸収していることが判明した!!!聞けば、宇宙管理に便利だと思って作った特殊空間内に何故かいた、構造色の髪を持つ少年に会いたくて宇宙ごと自分のものにしたくてそんな事をしたというじゃないか!!!
それを受けて、直感的に少年を保護・隔離した上で旧型管理士を「眠らせる」ことにした!!!悪気の有無はともかく、これ以上の被害を出さないためにもそうせざるを得なかったワケだ!!!
……と、一旦この事件が落ち着いたから、ボクはアーカイブを管理する部署に行って状況を確認することにしたら、驚くべきことに!!!ボクが旧型管理士を盗み出したことになっていることが発覚!!!さらに!!!アーカイブ化されたボクのきょうだいまでいなくなっていることがわかったのだ!!!
そんなある日、ボクのきょうだいが発見されたと事件を捜査している部署から連絡が入った!!!ボクらはその場所へと向かうが、なんとそこが旧型管理士の作ったあの空間の内部であることがわかって驚きを隠せない!!!
……とりあえずなんとかなったが!!!ちょっと色々と大ダメージを喰らったよ!!!まず!!!ボクの右腕が吹き飛んだ!!!それはいいんだが!!!ニンゲンくんに怪我を負わせてしまったうえ!!!きょうだいは「倫理」を忘れてしまっていることからかなりのデータが削除されていることもわかった!!!
それから……ニンゲンくんにはボクが生命体ではなく機械であることを正直に話したんだ。いつかこの日が来るとわかっていたし、その覚悟もできたつもりでいたよ。でも、その時にようやく分かった。キミにボクを気味悪がるような、拒絶するような、そんな目で見られたら、覚悟なんて全然できていなかったんだ、ってね。
もうキミに会えるのは、きょうだいが犯した罪の裁判の時が最後かもしれないね。この機械の体じゃ、機械の心じゃ、キミはもうボクを信じてくれないような気がして。
どれだけキミを、キミの星を、キミの宇宙を大切に思ったところで、もうこの思いは届かない。でも、いいんだ。ボクは誰にどう思われようと、すべきこととしたいことをするだけ。ただそれだけさ。
……ついに裁判の時を迎え、ボク達はなんとか勝利を収めた!
それから。
ボク達はニンゲンくんに、そばにいていいって言って貰えたよ!
とまあ、改めて日常を送ることになったボク達だが、きょうだいが何やら気になることを言い出したよ?
ボク達を開発した父の声が聞こえたから目覚めたと言っていたけれども、父は10,000年前には亡くなっているから名前を呼ぶはずなどない。
一体何が起こっているんだ……?
もしかしたら専用の特殊空間に閉じ込めた構造色の髪の少年なら何かわかるかと思ったが、彼自身もかなり不思議なところがあるものだから真相は不明!
というわけで、ボクはどうにかして兄が目を覚ました原因を知りに彼岸管理部へと行くよ!
─────────────────────────────
「さてさて!みんな準備はいいかい?」
「はーい!」「……。」「何を準備したらいいかわからん。」
「ええーっ?!!そんなぁ!!!」
「……かく言うボクもどうしたらいいのか分かっていないのだよ!残念なことに!!!」
……というか、なんで自分まで行かなくちゃいけないんだ?
「だってキミはボクの助手だろう?」
「助手なら何か策を一緒に考えたまえよ!」
……んなこと言われたって。
彼岸ってぐらいだから、なんかその、呪文……とか?
それとも何か書類でもあるのか?
「ボクだって名前しか知らないんだから仕方ないだろう?!それに……今そういうことを本部に聞ける雰囲気じゃないからさ!」
「おとーしゃん、あえないのー?」
「いーーや!きっと会える!!会うから!!!」
「……よく考えてみよう。旧型管理士の少女と構造色くんが出会ったのは『月と太陽が同時に降った』日───その日に本来なら繋がるはずのない者同士が出会った。」
「つまり、珍しい現象と別の『ナニカ』が重なって、繋がることのないはずの世界どうしが繋がったのだろう!」
「構造色くんの正体はよくわからないままだが、相当珍しい───奇跡とでもいうべきかな───存在だ。」
「なんせどうやってあの空間に入り込んだのかもわからないうえ!体を用意しないと不安定で崩れそうになる!しかも!!本人が何にも覚えていないときた!」
「そして、きょうだいが声を聞いたのは……。」
「おとーしゃんがおなまえよんで、はーい!てするまえにいなくなっちゃったなのー。」
「つまり……えーと……返事をする間もなくいなくなってしまった、ということかな?」「ん!」
「構造色くんと旧型さんが出会ったのも一瞬だと言っていたね?」
「ならば、その一瞬を───奇跡を───『意図的に』引き起こせばいい、ということだ!」
「そんなことが、出来るのか?」
「それが───できちゃうんだよねえ!!!」
「ねえキミ達、今日が何の日かご存知かい?」
「んー?」「その様子だと知らないようだね……?」
「今日は『太陽と月が同時に降る』日───皆既月食が起こる日さ!」
「この宇宙は……あ、そうそう、この宇宙、バックアップから元に戻しておいたよ!説明するのをすっかり忘れていた!申し訳ない!」
「この宇宙は少々古い型で、因果とか力が足りていないんだよねー!だから、星の力と、ボクの力を合わせて奇跡をもう一度起こす。少々面倒だが、今取れる最善の方法だからまあいい!」
……そんな小規模な「奇跡」とやらでいいのか?
「ふふん。ニンゲンくん、よく聞くがいい!」
「この世とあの世は───隣り合わせなんだよ?」
「こっちからあっちにアクセスするにはちょっとしたテクニックが必要だ、というだけでね?戻っては来られないが、行くこと『だけ』ならできる。」
「それこそ、ニンゲンが『死』と呼ぶものだ。」
「だから今回は、死なずにあの世に行ける方法を導くよ。」
「さて、みんなで祈ろう。あの世にいる会いたい人に会えますように───奇跡をもう一度起こしてください、ってね。」
奇跡をもう一度、か。
……会いたい人に、会えますように。
『皆さーん!おめでとーございまーす!』
『今日は特別にー!彼岸管理部へとご招待ー!』
声が聞こえたかと思ったその瞬間、宇宙管理機構に似た場所に出た。ここが……彼岸管理部、か?
『そのとーり!ニンゲンさん、勘がいいねー!』
誰だ!というかお前までしれっと心を読むな!
『えー?初対面の女性に対してお前だなんてー!失礼ー!』
「ふーん……キミもボクの作ったプログラムで動いているんだ。」
『ご機嫌よう、マッドサイエンティストさん!おかげさまで今日も喜怒哀楽!ですよー!』
「そろそろ姿を見せたらどうだい?」
『まあまあそー焦らずー!』
『とりあえず奥のお部屋へどーぞ!』
……あの世って思ったよりポップなんだな?
こんな調子でこの問題、解決するのか?
……そう思って自分も機械たちの後に続いた。
『To be continued… ですねー!』