「過ぎた日を想う」
博士。あなたがボク達を作り上げた日は、どんな気持ちだったんだい?嬉しかった?ほっとした?それとも───面倒だった、かな?
ボクは、いやボク達はすごく不思議な気持ちだった。
突然意識が芽生えて、知識も膨大にあって、感情もあって。
あなたが用意してくれたデータのお陰で、困ることはなかった。
不思議だったと同時に、とっても幸せだったよ。
色んな宇宙から持って帰ってくる変な食べ物も、おもちゃも、全部ぜーんぶ大好きだった。みんなで過ごすあの時間が、本当に大好きだったよ。
あなたも幸せそうで、ボクも嬉しかった。
でも、そう長くは続かなかったね。
あなたが作ったボクのきょうだいは未知のウイルスで記憶を徐々に消されて『過去のもの』にされた。
そういや、ボク達を作る前にあなたがした判断は賢明だったね。はじめはきょうだいをケアロボットに、ボクを仕事に特化した機械にしようとした。
そのままの計画だったら、無力なケアロボットが一台残っただけの世界があったのかもしれない。
それに気付いたあなたは、ボク達がふたりで助け合って生きていけばきっと寂しくないと考えたんだ。
そうして双子の機械が生まれた。
そしてすぐに片割れだけになった。
ボクだって悲しかったけれど、ボクもあなたと同じように、きょうだいの形の穴を塞ぐために研究に打ち込んだ。
そうして今から一万年前、とうとうあなたまでボクを置いて行ってしまった。
ボクは完全なる孤独な機械になってしまった。
失うのは当たり前のことなのに。
わかっていたことだったのにね。
でも、もう寂しくないよ。
ボクも今からそっちに行くからね。
色んなことを話したいんだ。
博士。あなたは、どんな顔をするだろうか。
10/7/2024, 3:57:55 AM