『ひなまつり』
「お先に失礼しまぁ〜す」
『お疲れさまぁ〜』
『気をつけて帰ってねぇ〜』
「ありがとうございまぁ〜す」
雪の降る寒い夜
私はバイトを終え
店長がくれた廃棄処分寸前のパンを
自転車に乗せて夜道を急いだ。
今にも消えそうなくらい薄暗い街灯が
ポツ ポツとしかない道を
恐怖心と闘いながら走る。
かごに入ったパンが跳ねるのを
手で押さえながら…
5分くらい走ると民家が見えてきた。
いつもならそこも変わらず真っ暗な道。
今日は珍しく部屋の灯りがついていた。
安心感から自転車をこぐ足が遅くなる。
窓ガラスに曇り止めがされているのか
カーテンも開いていて
部屋の中がはっきりと見えた。
私は自転車から降りてゆっくりと歩き始めた。
家の中では家族そろってテーブルを囲み
何かを祝うケーキが
テーブルの上に置かれていた。
小さな女の子とその両親。
女の子は色とりどりの華やかな着物を着ていた。
にっこり笑う女の子。
嬉しそうに写真におさめる両親。
温もりいっぱいの家族の姿がそこにはあった。
寒空の下
私はふと今日が何の日だったか気になり
ポケットからスマホを取り出し
日付を確認した。
3月3日 ひなまつり🎎
雪の降る寒い夜
心だけは温かくなった。
🍀
『たった1つの希望』
私は11歳にして
世の中に生きづらさを感じている。
遊び友達はただ1人。
顔の見えない友達はたくさんいる。
私はゲーム以外
得意なこと、好きなことがない。
勉強も嫌いだ。
人間関係も苦手だ。
頑張ろうと思えば思う程苦しいのだ。
そんな私の良き理解者は母だ。
母も私と同じで
世の中に生きづらさを感じている。
ただ1つ私と違うトコロといえば
努力は人を裏切らないと信じて
諦めず努力し続けているところだ。
私の叶うか叶わないか分からない
プロゲーマーの夢も応援し続けてくれている。
私のたった1つの希望は
母のように夢を諦めず努力し続け
いつかプロゲーマーになることだ。
生きづらい世の中で
自分らしく生きていくことだ。
『遠くの街へ』
ひとつ屋根の下
家族の楽しそうな声が聞こえてくる。
私は隣の暗い部屋で
その声を聞きながら眠りにつく。
長い長い夜が過ぎ朝が来る。
そっと扉が開き「体調はどお?」
扉の隙間からもれた部屋の灯りで目を覚ます。
朝が来るのが待ち遠しかった私には嬉しい時間だ。
見た夢の話
咳がひどくて辛かったこと
話したいことはたくさんあった。
けれども私は我慢した。
家族に同じ思いをさせたくはなかったからだ。
お粥をリクエストし
私は扉をパタンと閉めた。
数分後用意してもらったお粥を
時間をかけてゆっくりと食べる。
抽選で当たった北海道旅行のことを
想像しながら…
食べ終わり薬を飲んで再び横になる。
元気になって家族で行けたらいいなぁ〜。
遠くの街、北海道へ…
『列車に乗って』
YouTubeで知った彼の存在。
心に刺さる歌い方と理解しやすい歌詞。
YouTubeで見せるお茶目な姿。
かっこいいトコロと可愛いトコロ。
そのギャップがたまらなく素敵な彼。
そんな彼を(陰ながら応援したい)
そう思っているだけだ。
私の楽しみは小さな画面の中に映し出される彼を毎日観ること。
彼が言うくだらない動画も私は大好きだ。
彼の笑顔はホントに元気をくれる。
娘も彼が大好きだ。
「一緒にライブ行こうね」
いつもそう誘ってくれる。
恋する乙女の顔になる娘がとても可愛い。
夢の中でもいい。
彼のライブチケットが手に入ったら夢の列車に乗って夢の時間を過ごしたい。
夢の中で…
『君は今』
5年付き合った彼と別れた。
そして数年後、私は別の人と結婚した。
時々思い出す。
生まれて初めてした傘の下での告白。
彼と車の中で聴いたLove Song。
彼と一緒に食べたモスバーガー。
別れた日の朝の会話。
今もハッキリと覚えている。
「好きだから別れたくない」
初めて聞いた彼の本音だった。
もっと早く聞きたかった。
そんなことを思い出しながら車を走らせ気がつくと2人でよく行ったプラモ屋に着いていた。
あの頃とは違う店内。
いまだに変わらないのは好きな車だけだった。
懷かしくて大好きな車を手にとろうとしたのと
同時に隣りにいた男性も同じ車を手にとろうとしていた。
「あっ、すみません」
そう言って男性はさっと手を引っ込めた。
聞き覚えのある声と優しい口調。
私はドキドキしながら男性の顔を横目で確認した。
驚きのあまり声が出ない。
心臓が飛び出んばかりのドキドキ音。
懷かしくて思わず涙がこぼれた。
男性が話しかけてくる。
「僕は他のを買いますから良かったらどうぞ」
あの頃と何も変わらない彼の優しさ。
店内は変わっても変わらないものがあった。
嬉しさのあまり涙が止まらなくなった。
涙でぐちゃぐちゃになりながら私は言った。
「ありがとうぅ…ございます。」
そして彼の顔を見た。
彼が驚いた顔で私を見る。
「久しぶり…だね。元気そう…だね。」
私はコクリとうなづいた。
懐かしい声にまた涙がこぼれた。
「ずっと泣いてるけど何かあったの?良かったら聞くよ」
泣きながら答える私。
「昔のこと思い出してた」
それから2人で店を出て近くの喫茶店へ行った。
色んな話をした。
別れてから借金地獄になったこと。
監禁生活だったこと。
今現在のこと。
昔のことをよく思い出すことも全部話した。
彼は黙って私の話を聞いてくれた。
そして、ひと言
『君は今幸せですか?』