優歌里

Open App

『ひなまつり』

「お先に失礼しまぁ〜す」
『お疲れさまぁ〜』
『気をつけて帰ってねぇ〜』
「ありがとうございまぁ〜す」


雪の降る寒い夜
私はバイトを終え
店長がくれた廃棄処分寸前のパンを
自転車に乗せて夜道を急いだ。
今にも消えそうなくらい薄暗い街灯が
ポツ ポツとしかない道を
恐怖心と闘いながら走る。
かごに入ったパンが跳ねるのを
手で押さえながら…

5分くらい走ると民家が見えてきた。
いつもならそこも変わらず真っ暗な道。
今日は珍しく部屋の灯りがついていた。
安心感から自転車をこぐ足が遅くなる。
窓ガラスに曇り止めがされているのか
カーテンも開いていて
部屋の中がはっきりと見えた。
私は自転車から降りてゆっくりと歩き始めた。

家の中では家族そろってテーブルを囲み
何かを祝うケーキが
テーブルの上に置かれていた。
小さな女の子とその両親。
女の子は色とりどりの華やかな着物を着ていた。
にっこり笑う女の子。
嬉しそうに写真におさめる両親。
温もりいっぱいの家族の姿がそこにはあった。

寒空の下
私はふと今日が何の日だったか気になり
ポケットからスマホを取り出し
日付を確認した。
3月3日 ひなまつり🎎

雪の降る寒い夜
心だけは温かくなった。



🍀

























3/3/2024, 1:48:36 PM