案山子のあぶく

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2/20/2025, 10:00:01 AM

◎あなたは誰
#49

誰といわれましても、
ちょいと前にリセットされちまった身でしてネ。
姿は前とかなり変わってるしー……。

あぁ、今はこういうもンですヨ。
ハイ、名刺をどうゾ。

え?なんの話だって?
どういうことかって?
やだなぁ、お忘れかい?

あー……そう。
キオク、今世は持って来れなかったのネ。

なぁに、アンタとワタクシの輪廻の話サ。
……ふぅむ。
こうも他人ヅラされるのはつまらんネ。

あ、そーだ。
いっちょリセット、キメとくかい?
次には思い出すかもしれないネ!

あ、やめとく?
ん〜そうなのネ。
まァいつでも会いにおいで。

今世のアンタの事も
まだまだ知り足りないシ。

ばいばーい。

2/18/2025, 10:21:58 AM

◎手紙の行方
#48

先日、黒山羊さんにお手紙を書いた。
それはプレゼントの袋の中に入れて郵便局に預けた。もう届いて、開封されただろうか。

少し、見えにくい位置に入れてしまったかもしれない。
気付かれていないかもしれない。
いっそ、黒山羊さんに読まれることなく何処かに消えてしまえばいい。

今になってそんなふうに思ってしまう。
どうしよう。どうしよう。どうしよう──

ヴヴヴッ

唐突に机の上の携帯が震えた。
恐る恐る画面を覗き込む。

黒山羊さんからお返事着いた。

2/18/2025, 9:58:43 AM

◎輝き
#47

しゃらしゃらチカチカと眩いばかりの宝物を背負った巨大なヤシガニ──タマトアはご機嫌に歌いながら体を揺らした。
すると、光に釣られた魚が自ら彼の口目掛けて飛び込んできた。
それを咀嚼し呑み込むと満足そうに笑ってステップを刻む。

「ほんっとタダ飯は最高だぜ♪」

甲羅の中心部には人間からすれば大きい、彼からすれば小さな釣り針がちょこんとすえられている。
彼の機嫌をいつになく良くしているのはまさにその魔法の釣り針だ。
タマトアにとっては他の宝物のなによりも輝いて見える特別なものだ。
それをちらりと一瞥して更に気をよくしたタマトアは自身の鋏を頭上に掲げ、海の更に向こうを見透かすように目を細めた。

「マウイ、お前の自慢の釣り針は俺のコレクションになっちまったぜ♪まさかお前がくたばってるわけがねぇよなあ?ほら♪取りに来い、来い、来い♪」

地を這うような歌声と笑い声はどんどん大きくなっていく。
日夜縄張り争いを仕掛けてくるライバルたちも小物たちもタマトアの機嫌を損ねることを恐れて今は大人しくしている。

しばらくの間ラロタイにはタマトアの声が響き渡ったという。
───────────────────
モアナと伝説の海より タマトア

[駄弁&蛇足]
タマトアってマウイにけっこう重めの歪んだ感情向けてる気がするんですよね。
モアナ2を観てからモアナ沼にズブズブ浸かっていたところにこのお題がきたものだから思わず書いてしまったわけです。
(布教もどき)

2/2/2025, 11:28:55 AM

◎隠された手紙
#46

文机の引き出しの二重底の中に
手紙をしまい込んだ。
宛先は未来の当主。

何代後の者が見つけるかはわからない。
でも、誰かが必ず見つけ出す。
そんな自信がある。
そしてきっと、争いの火種となるだろう。

内容は、『私が犯した罪』。

小さな罪から人生最大の罪まで、
事細かに記しているそれをしまい込んだことに安堵して、老婆はそっと息を吐いた。

1/28/2025, 2:42:37 PM

◎帽子かぶって
#45

私には隠し事があると目元を隠す癖があるらしい。
全くの無意識なので自覚は未だに無いが、長い付き合いの親友が教えてくれた。
帽子をかぶってるときは特に顕著にその癖が現れるのだとか。

「──……あ。何か隠してるだろ?」
「いや、何も?」
「えー?本当に?」

ついっとこちらを指差して笑う。

「目、隠れているよ?」

こんな風に気付かれてしまう。
でも、全部話してしまう必要も義理も無い訳で。

「内緒」
「君はいつもそう言う。なんだよ、最期くらいは良いじゃないか」
「つまらない事だよ」

親友の膨らんだ頬を撫でて返す。
それでも、

「もう隠さなくても良いだろう?墓場はすぐそこだ」

なんて親友が穏やかに言うものだから。
喉の奥が切なく震えて、思わず口から言葉が漏れ出た。

「─────。」

親友は驚いた表情をして。
そして満足気に笑った。

「そうか、ありがとう。……私も、君を─────。」

最後は途切れ途切れではあったが、何を言っていたかは分かっている。

「あぁ、もっと早くに言っていれば。何か変わっていたのだろうか」

もう物言わぬ親友の表情はとても幸福に満ち満ちている。
長いようでとても短かった月日の奔流に思いを馳せながら、私は帽子を深く被り空から落ちる雫を受け止めた。

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