◎変わらないものはない
#42
何時かは此処も栄えていたらしい。
そんな時代の建造物群が苔を帯びてそびえ立つ原生林。
元は何だったかも解らない何かの部品を、今でも考古学者を名乗る人々が拾い集めている。
だから私を含める現地民はそれらを先に拾って稼ぎにしている。
今日も、一つ二つ水底から汲み上げたり、引っ掛かっているのを取ってきたりした。
透明な柔らかいベコベコと音が鳴るモノ。
金属が連なった紐。
透明な筒とそれに入っているペラい何か。
こんなモノ、何に使っていたのか全く想像出来ないが……。
日銭稼ぎになるならなんでも良いや。
◎雪を待つ
#41
少年。
今、雪の塊を食べたかい?
そうか。
それではもう、語るしか私に出来ることは無い。
空から舞い落ちる雪には小さく白い種が混ざっている。
それは春の種だ。
冬の精霊が大切に守り、雪解け水によって芽吹き、その蕾が開花すると周辺は美しい春の景色と化す。
ただし、
間違えても生き物がそれを体に取り込んではいけない。
もし、腹に宿ってしまえばその体の持ち主は冬の精霊によって春まで眠りにつくだろう。
もし春になって目が覚めたとしても、春と同化したその命は夏を迎えることは出来ない。
怯えてももう遅いよ、少年。
君は種をその体に入れてしまった。
……延命する方法は1つだけある。
夏の種を飲むことだ。
春の終わり頃に、それは空から降ってくる。そしてまた眠るのだ。
夏の終わりには秋の種を飲む。
秋の終わりには冬の種を飲む。
それを繰り返すんだよ。
そうすれば生きながらえることもできるだろう。
だが──
おや、人の話を最後まで聞かないで行ってしまった。
10年繰り返せば
私のように死ねなくなるんだがね。
◎逆さま
#40
『天地がひっくり返るような』
とはよく(本などでは)いうけれど、
実際に“天地が覆された”現在の状況を誰が想像しただろう。
国際連盟が秘密裏に進めていた重力からの脱却する実験が功を奏し、未だ人類は滅ぶに至らなかったが、死者や行方不明者は幾万幾億にも及んだ。
しかしこの状況で連盟の管理は行き届かず、世界の規則、法律は意味を失った。
全世界が無法地帯へ成り下がり、人々は言葉ではなく武器を取った。
第三次世界大戦とは誰が言ったか。
戦乱により狂ってしまった世界で、最早人類には未来が見えなくなってしまった。
かくいう私もこうして被弾して元ビルに突っ込み、あとは活動停止を待つだけになってしまったわけでね。
君たちの住居を荒らしてしまってすまない。
ここで私が勝手に朽ちていくのは君たちにとっては邪魔で仕方ないだろう。
どうかあと少しだけお付き合い願いたい。
◎光と闇の狭間で
#39
逢魔時に目を覚ました“〇〇”はその背に茜を背負い、首をもたげた。
終わりのない者たちを神と呼び、善と悪、光と闇に分ける今世。
それよりも遥か昔から存在する混沌とした“〇〇”は自身の体に巣食う者たちを見下ろして変わりないことを見届けると、再び眠りについた。
自身が完全に目を覚ませば崩れ去る世界を嘲笑いながら───
◎終わらせないで
#38
目を開けると、真っ白な空間に綺麗な人が佇んでいた。
ぼんやりとその後ろ姿を眺めていると、その人はこちらに振り向いて口を動かした。
「────」
なんて言ったのか聞き取れなくて首を傾げると、その人はやんわりと微笑んだ。
「ここで終わらせないで」
聞き取れた瞬間空間にヒビが入る。
どういう意味か聞きたくてあらん限りの声で叫ぶも、困ったような顔をしてその人はこちらに手を振った。
目を開けると、色の着いた世界が目の前に広がっていた。
一定の間隔を刻む機械音が鼓膜に届く。
涙が溢れて止まなかった。
どうやら、死に損なったようだ。