案山子のあぶく

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◎雪を待つ
#41

少年。
今、雪の塊を食べたかい?
そうか。
それではもう、語るしか私に出来ることは無い。

空から舞い落ちる雪には小さく白い種が混ざっている。
それは春の種だ。
冬の精霊が大切に守り、雪解け水によって芽吹き、その蕾が開花すると周辺は美しい春の景色と化す。

ただし、
間違えても生き物がそれを体に取り込んではいけない。
もし、腹に宿ってしまえばその体の持ち主は冬の精霊によって春まで眠りにつくだろう。

もし春になって目が覚めたとしても、春と同化したその命は夏を迎えることは出来ない。

怯えてももう遅いよ、少年。
君は種をその体に入れてしまった。

……延命する方法は1つだけある。
夏の種を飲むことだ。
春の終わり頃に、それは空から降ってくる。そしてまた眠るのだ。

夏の終わりには秋の種を飲む。
秋の終わりには冬の種を飲む。

それを繰り返すんだよ。
そうすれば生きながらえることもできるだろう。

だが──

おや、人の話を最後まで聞かないで行ってしまった。


10年繰り返せば
私のように死ねなくなるんだがね。

12/16/2024, 9:02:17 AM