◎太陽
#18
日差しが肌に突き刺さる。
まるで私の罪を咎めるように。
あのとき弟を殺せなかった所為で、
今、沢山の人たちが苦しんでいる。
けれど、あのとき弟を殺したとしても
天におわす太陽は私を咎めただろう。
どちらを選んでも結果は変わらなかったのなら、
そのとき後悔しない道を選んだ私を、
私だけは褒めてあげるのだ。
◎鐘の音
#17
菅原道真が京の都の方角を眺めながら
梅の木を想う。
「とうとう左遷されてしまった。私の栄光もここまでか……あぁ、梅の花よ。春の風が吹いたなら、香りを送っておくれ。そして、私がいなくなったからといって、春を忘れずに咲くのだよ。」
その夜、梅の木が飛来し大地を震わせ、
遠くで鐘の音が鳴り響いた。
”擬音”精舎の鐘の声とはこのことか。
「ドッ「ゴォ〜ン」」
◎目が覚めるまでに
#16
研究室からのそりと出てきた竜也は、
低い声で「コーヒー」とだけ言い放った。
海人はそれを聞いて溜め息を吐き、薄めのインスタントコーヒー───ではなく。
麦茶を差し出した。
「お前、何徹目?」
「三徹目……いや四か?」
「そうか家に帰れ」
海人はにっこりと笑ってはいるが、目が笑っていない。
(しまった)
何故か、海人はかなり怒っている。
頬をよく見るとピクピクと引きつっていた。
竜也はそれから目を逸らし、
ぐいっとひと息にコーヒー(麦茶)を煽ると身を翻した
が
ぐらりと視界が歪み、膝から崩れ落ちた。
「よーく寝てな、馬鹿野郎」
竜也が寝落ちたのを確認すると、
海人は二人に電話をかけた。
「竜也は寝かせたから戻って来てくれ」
薄暗い部屋の中を三人の人影が覗き込む。
「ちゃんと寝てるか?」
「ぐっすりだな」
「耳栓も付けとくか」
「良い案だ」
竜也が熟睡しているのを確認した後、
海人はそっと扉を閉めて二人に向き直った。
「それじゃあ、作戦を確認するぞ」
「「応」」
「燈真は広場の飾り付け、俊一は料理……あ、ヘルシーで胃に優しいヤツな。俺は荷物の受け取りと道具の準備。で良いよな?」
ニヤリと笑って全員が作戦にうつる。
──MISSION──
竜也の目が覚めるまでに、
誕生パーティーの準備を完了せよ。
◎病室
#15
病室のベッドにはテーブルがついてる。
あれ、かなり素晴らしいと思う。
なんでって?
そりゃあ、心地よいベッドの中で紙とペンが揃うんだよ?
最高以外の何ものでもないと思うんだけれど。
紙とペンがあれば、
絵も文も記号も模様もメモも書ける。
色や書き心地、メーカーを変えればテンションを上げることもできる。
想像力の全てをベッドの上で存分に発揮できる。
入院したいわけじゃないけど、良いなぁ
って思う。
◎明日、もし晴れたら
#14
最近、雨がロクに降ってないからなぁ。
井戸の水もだいぶ底が見えてきた。
木陰に入っても地面はカサカサしてるし。
子どもらが外で遊ばない。
暑さにやられてぐったりしてるやつも多い。
活気が無くなってきたなぁ。
これ以上晴れが続くと、畑も駄目になっちまうだろうな。
そんときゃ、どうしようか。
山の神様に手を合わせに行こうか。
人の手ではどうもできないからなぁ。
雨が降らない。
となれば明日か明後日に、麓の村の者が来るだろう。
いらない生贄を携えて。
ホントいらないんだよなぁ。
生贄より桃食いてえなぁ。
参拝ももうちょい多くなれば緊迫するより前に手を打てるんだがなぁ。
「「雨降らねえかな」」