案山子のあぶく

Open App
7/19/2024, 1:24:29 PM

◎視線の先には

「綺麗だなぁ」
空を見上げて口を間抜けに開ける少年は、星を指でなぞって形にしていく。
「あれは、ベガ。あっちが、デネブ。あそこのが、アルタイル」
夏の大三角が完成すると楽しそうに笑う。
「明日は天の川、見れるかなぁ」
頬を赤くして、手に持った小さな天体望遠鏡を精一杯握りしめる様子はまだまだ幼い。
(お前にはこの空はどう見えてるんだろうな)
宝石箱のように輝いて見えるのだろうか。
その視線の先にはどんな世界が、未来が見えているのだろうか。
「きっと、見れるさ」
そう言って、その景色を忘れた父親は少年の髪をくしゃりと撫でた。

7/18/2024, 10:53:34 AM

◎私だけ

カラオケでは絶対に
ロンリー・チャップリンを歌って、
毎回90点台を叩き出すJKって
私だけかしら。

母校で、朝読書の時間に
国語辞典を読んでいたのは
私だけかしら。

狐を手で形作る時、
どうやっても小指をたてられないのは
私だけかしら。

夜、暗い道を歩く時、
周りに好きなキャラクターたちが居ると
自分に言い聞かせて歩くのは
私だけかしら。

墓地で、
そこには居ないはずの妹の声で
「お姉ちゃん」
と誰かに呼びかけられたのは
私だけかしら。


「私だけ」とか
どうやっても確かめることは出来ない。
でも、ひとつだけ。
確実な「私だけ」がある。

「今、この場所に立っているのは私だけ」

誰が何処に居るか、なんて大したことない?

でも、歴史は
「誰かがそこに居て別の誰かと出会う」
それの繰り返しで紡がれてきた。
過去の偉人も英雄も、誰かと出会って影響を受けた。

私が此処にいる。
それだけで、誰かに影響を与えている。

私たちは歴史の中に居る。
誰にも覚えられてなくとも、私たちが生きた証は後世に残り続ける。

人生って面白い、と思うのは
私だけかしら?

7/17/2024, 11:16:43 AM

◎遠い日の記憶

人間は、ふと過去を振り返ることがある。
周囲の雰囲気だったり、季節独特のにおいだったり……引き金となる要素は辺りに溢れている。
それでも、どうしても思い出せないこともある。
小さい頃に一緒に遊んだあの子の声。
秘密基地にしたあの場所への行き方。
そして、産まれたばかりの頃のこと。

それらは、誰もが簡単には思い起こすことはできないものだ。

それでも。
移り変わりゆく町並みを見て私たちは時の流れに思いを馳せるだろう。

此処は昔はこうだったのかもしれない。
こんな人が生きていたかもしれない。

過去は、全てが現在に繋がっている。
思い起こすのはその土地が持つ記憶か。
もしくは、人々が紡いできた魂の記憶か。

遠い日の記憶は、
まだ此処で息づいている。

7/16/2024, 10:51:12 AM

◎空を見上げて心に浮かんだこと

「空を見上げて心に浮かんだことぉ?」
「うん。アサヒは何を思うのかなって」

もうすぐ夜になりそうな頃に聞くなよと思いながら、アサヒは考える。
雲が浮かんでるなら何かに見立てるところだが、今は一面の夕焼け色しか目に映らない。

「何つってもなぁ……藍色と茜色は正反対なイメージだけど、よく似合う……とか?」

自分でも何を言ってるのかわからないのに、隣を歩くユウは納得したようで何度も頷いていた。

「ユウは?なんて答えるんだよ」
「私は朝焼けを思い浮かべるよ。夜を越えて次に空が二色に染まるのは朝焼けの時だから」

楽しそうに笑うユウには夕焼けの色がよく似合っていた。

7/16/2024, 8:41:55 AM

◎終わりにしよう

「終わりにしよう」
そう言ってケイゴは両の手を前に突き出した。
「あぁ……俺も、そう思ってた」
正面に構えたコウタも指先に意識を集中する。
2人の間に冷たい風が吹き抜けた。
「行くぞ!」
「来い!コウタァッ!!」
「「うおぉぉぉぉぉぉ!!!」」
コウタの指先が風を切り、ケイゴの鼻先を掠める。
「…………」
沈黙の後、コウタが膝をつく。そしてケイゴは天へ拳を突き上げ、勢いよく振り下ろした。
「コウタ……お前、なんでまた……っ!」
「俺だって、やりたくてこんな状況にしてるんじゃない……!」
「何度目だよ……これじゃあ、終わらねぇじゃんか!」

「「ババ抜き!!!」」

ループにはまった2人を見てアイスキャンディーを咥えたユウキは腹を抱えた。
「お前ら仲いいなぁ(笑)」
「「その(笑)ってのやめろ!」」
「ファーーーッw死ぬ、笑い死ぬwww」

それは暑い夏の日の、
クーラーの効いた部屋での一幕。

Next