『静寂の中心で』
雨上がり、
真夜中の散歩道
虫の声さえしない夜
雨の匂いが残る中、
私は1人散歩に出た
私の心は表面張力
コップの水が今にも溢れそう
―――――――――ならまだいい
………………零れない―――
表面の水は、そのまま膨らむ
まるでシャボン玉のように
たまに「間違ってこぼれる」が
「それが間違いなんだ」と直ぐに戻ろうとする
……私にも分からない
私にはこのシャボン玉のような水が
「流すべき涙」だと分かってるのに…
上手く……泣けない…
…?シャボン水の中心に
なにかがあるような……?
この際触れてみようとするけれど
私が手を伸ばすと
コップの中に無理やり引っ込む
……あれだけの量を一体どこに
私が少し離れると、
また出てきてシャボン水に
どこぞの臆病系モンスターみたいだけど…
今はちっとも笑えない
……今だけはそれでもいい
私はここを離れないと決めた
この水が割れた時、
シャボン水の中心にあるものが
きっと私にとっての応えのひとつ
―――自分との内省を胸に秘め
湿った夜道の帰路に着く―――
〜シロツメ ナナシ〜
『燃える葉』
これは
小学校の修学旅行の
あるひとコマの記憶
キャンプ施設でカレー作り
グループ活動で、
火を起こすところから
自分たちで頑張った
火を起こす台のところ
まきを組んで新聞詰めて
ついでに少しの葉っぱを加えて
「火」を使う
それは小さな遊び心と
中くらいの期待と
大きな不安や恐怖と
火がつく―――
小さな火が、
瞬く間に大きくなった
すごかった
けど、怖かった
みんなや大人も居たから
その時は大丈夫だったけど
火を見ながら、子どもなりの恐怖があった
自分の顔は、たぶん笑顔のようで
かなり強ばってたと思う。
昇る炎に、薪や葉っぱが
パチパチと音を立てて燃え上がる
飛んでくる微かな火の粉
説明の通り、
大人が見てる中でやったのだが
「火をつけた」のは自分
今でも
あの時の「思い」を
いまだ言葉にできない出来事として
心に、子供心と一緒に残ってる
〜シロツメ ナナシ〜
『moonlight』
数年に1度 紅い月明かりの夜
その時のみ 開かれる
己の力 解放の瞬間
それは本人にも分からない
その夜だけは、
そのものの姿かたちも
何が起こっているのかも
誰にも―――わからない
絵本のお話と思われていたはずの
月明かりの物語
それは……こんなおはなし―――
📖´-
なぜこの話が残っているのか?
それはこれを偶然見たものが
外から見ていた者がいたからか
はたまた、
生き残って物語にしたため
今日に繋いだから
……かもしれない
〜シロツメ ナナシ〜
『今日だけ許して』
頼む…待ってくれ……
今じゃない……今じゃないんだ…!
こんなタイミングだけは
許してくれ…!
いつも泣きたい時に泣けないのに…
なんでこんな……
こんなに人がいる時に限って
なんでこんなに泣きたくなるんだよ…!
ほんのちょっとの
きっかけやタイミングで
コップの表面張力の限界のように
間違ってダムが開いたかのように
涙が少しずつ
それでもとめどなく流れてくる
耐えてくれ…俺……!
後で思う存分、泣いていいから…!
せめて表情だけは
普段通りか 笑顔になるように
顔に力を込めていく
ただ、涙だけは…
それでも少しずつこぼれてきて
それでも……それでも耐えきれなくて、
おれはお腹が痛い振りをして
トイレに駆け込んだ―――
〜シロツメ ナナシ〜
『誰か』
やだ………
やだ……!やだ…!!!
誰か……!誰か………!
だれか…………、
だれか…………………
どんなにうずくまって
どれだけ叫んでも…
どれだけ喚いても……
誰も助けてなんてくれなくて……
こんなに……
こんなに人との差があるなんて…
あるのは仕方ないけど……
何もこんなに差がなく立っていいじゃん……
追いつけない……報われない……
足りない努力…?頑張れない心…?
私は………わたしは……
…………もう……がんばれない………
……………だれ……か……―――
―――――――――
私でも大丈夫ですか?
頑張り屋のあなた様
――― 〜星の図書館〜 ―――
これは……心が相当参ってますね
いえ、大丈夫ですよ
たまにいらっしゃいますので
夢を見てる自覚と意識はここにあるのに
体が形成できていないことは
ここでは割とよくあります
何度かありませんでしたか?
とてもそばにいるのに、
相手に気づいて貰えてないこと
おっと、
言ってる場合じゃありませんでしたね
そのままだと
話を聞けても喋れませんからね
では、少しだけ集中を
ほんの少しだけ、
自分の体を意識して―――
……?出来ない?
そうですか…
いえ、そういう人もたまにいます
では……そしたらば
ほかの体を借りましょう
あるいは、
新たに作りだしましょう
なんでも構いませんよ
好きな人形、動物、架空の生き物、
なんなら赤の他人だって大丈夫、
もちろん、リアルの人でも
キャラクターでもなんでも問いません
ええ、なぜならここは、
夢の世界 ですからね
それでも難しい時は
私の今持ってる
この犬か猫のぬいぐるみに
なって頂きましょうかね
―――――――――なるほど
先程のあなたの言ってたことは
私はまだよく分かってませんが、
きっと
「その姿になりたかった」んでしょうかね
多分ですが
私のぬいぐるみを選ばず、
あなたは、
あなたのイメージしたその姿になった
本意かどうかは一旦置いときましょう
少なくともこの場では
「あなたが選んだ」
それにはきっと理由がある
それは、好きだからかもしれない
反対に、あまりに苦手すぎるからかもしれない
なりたい姿、在りたい形、
あなたにとっては……とても、
とっても遠い存在なのでしょうね
その姿の存在というのは、
あなたにとっては
あなたのなりたい姿になってる人が
目の前に現れたような……
そんな感じも似ているかもしれません
あなたはきっと、
沢山我慢してきたのでしょう
たったひとりで
――――――
………っふふ
そうですね、あなたの言うとおり
稀によく聞く話ではありますが
私はそれを笑う理由はありません
特にここ星の図書館は、
私を含め、そういう人は
たまにいらっしゃいますので
なので、ほんの少しだけですが
あなたに寄り添える気はします
……さて、
あなたは…、どうしたいですか?
今はまだ夢の世界、
起きればまた戻ります
その時にあなたがどのように進むのか
ここでゆっくり、考えてみてください。
たくさん時間がある訳では無いですが
せめて、時間をゆっくりにして
考える時間を設けることぐらいなら出来ます
今の私には、
あなたをまだ知りえませんので
出しゃばったことは何一つ言えません
ただ、たったひとつだけ
この言葉を送らせてください
「あなたは、まだいきてます」
最大のチャンスは逃したかもしれません
ですが、まだできることや
やっておきたいことが、
ほんの少しだけでも残ってないか
まだ、「さがす」という事ができます
あなたにも この星の栞を
渡しておきますね
それからこれも、「星の付箋」もどうぞ
こちらも使い方は色々
覚えておきたいページに
あなただけの目印
それから、「その姿」を
もう一度再現するための目印
外付けメモリーみたいなものですよ
私のできることはこれぐらい
そして、あなたが
またここに来てくれることを
私はとても願ってます
―――では、
今日はもう時間みたいですね
―――「また来てください」ね―――
――――――――――――
………目が覚めた
随分と、深く……眠ってた………
最後に横になった時のまま
夜が明けようとしていた
あの場所は……いったい………
私は……、
まだ…生きていたい………のだろうか?
―――――――――――――――
おや?あなたでしたか
いらっしゃい、待ってましたよ
―――
ええ もちろん
ひとつずつ、お話しましょうかね
あなたが
あなた自身にも
読み解けなかった「あなたの物語」を、
私と一緒に読みといてみましょうか
〜シロツメ ナナシ〜