人生が苦しい。
悲しくて仕方ないのに、理由なんてこれっぽっちもない。それがまた哀れで悔しくなる。
けれど、そんな風に考えるから苦しくなるのだと幸福の最中から諭される。
何か出来る事が誇らしいように、何もできない事が情けないと感じる事は卑屈なのだろうか。
この世界は無知で保たれる幸福に囲われている。
変わらないものは無いだろう。
時間と共に過ぎる形は溶けて綺麗に無くなってしまう。
昔の貴方は遠くに行ってしまった様で今では返事が聞こえる事も減って悲しくなる。きっと私よりも大切な人だから、そうは思ってもそれじゃあまるで私は大切じゃ無いみたいだ。深く傷付いてしまうが、貴方の笑顔が綺麗だから側に居たいと今日もお気に入りの茶葉と菓子を持って向かった。
玄関をバタバタと音を立てて開けられては、出てきた貴方が笑った。
あぁ、もう綺麗にも見えない。私も変わってしまった様で何だか異様に寒く感じた。
「胸に手を当てて考えてみて」
そうして、乱暴に扉を閉めて彼女は出て行ってしまった。今日は記念日で、最近は仕事が忙しかったから一ヶ月ぶりに会う予定だった。私は浮かれて彼女が好きなチョコケーキと苺のタルトを一つずつ買った。甘い物はあまり好きでは無いから、彼女が食べて嬉しい物を選びたかった。普段持たない花束なんかも買って、少しぎこちなく向かった玄関口での出来事だった。
現実味を帯びない様な感覚で、どうしたら良いか分からなかったけれど胸に手を当ててもただ置いて行かれた寂しさだけがそこにあった。
少しだけ夜更かしをして、何だか秘密のパーティーみたいだ。嬉しくて楽しくて堪らない。
柔い頬がほんのり色付いて、私の手を握った。
小っ恥ずかしくなって、目を逸らす。
夜明け前の少しずつ広がり出した赤とも言えない橙色は肌が焼ける様に熱かった。
「こんなに綺麗な太陽は初めて」
息を呑む様にそう告げる彼女は溜めた涙をほろほろと流していた。宝石よりも綺麗で、見惚れてしまう。
昔は、この陽に照らされる事が苦痛で仕方なかった。暖かい始まりを告げる様で、それに馴染めない自分が愚かで仕方なかったのだ。
「こんなに綺麗だから、君と星空も見たい」
彼女の反応を見るのが怖かったから、代わりに君の手に力を込める。一つも取り溢さ無い様に。
「今日の夜が楽しみだね」
幸せそうに君が泣いて部屋に戻るから、バレない様に踏み台を隠して追いかけた。君を抱きしめる為に。
この世の誰より信頼して、何よりも守りたくて、だから裏切られるとどうしようも無くなる。
本当に本気で好きだから、対等でいたいから感情を曝け出してしまう。
それがどうだろう、貴方にはそんな感情出てこない。
心から愛おしくて、私には勿体無いから別れを切り出されても納得してしまう。貴方を縛りたく無いから。
だからいつまでも愛してると言えない。
貴方が安心して寝顔を晒すのを喜ばしく思う反面、他人事みたいで悲しくなる。
この感情が愛ならば、あの日の憎しみを暖めた私は恋をしていたのだろうか。
今でもあの人を忘れられない。忘れたいのに。