例えば大きな貝殻が、海に流されて砕けてしまえばそれを貝殻と呼ぶことは出来るのだろうか。
きっと全てのかけらが集まって、元の形と同じ重さになったとしても元に戻すことは出来ない。
そしたら、君がこうして小さくなって私が抱えられる程軽くなってしまったのは当の昔に消えてしまったという事だろうか。
海の匂いが鼻をつんざき、砂が目に入るから泣いてしまう。こんな所に撒いたって君は自由になれないだろう。
だって、私が縛り付けたのだから。
後悔なんてしていない、していない筈だったのに。
自分を表すためだと、表現の一つでその香りを纏う貴方って一体何になりたいのだろうか。
表す形を誰かの作り上げた物で構成するなんて、愚かだと思わないのか。
自己表現なんて人生でしかないのに、生きてるうちに出来る訳ない。死に方で分かるだろうから。
それを素敵な文化だと思えない私はきっと救われない。
今日も息苦しい。
私も香りに逃げられたら良かったのに。
まるで鏡を見ている様な生き写しだった。
彼女の様な芯のある瞳に、耳心地の良い声。
少し癖のある髪が光に照らされてより一層明るく輝く。
宝石で出来ているかの様な眩さ全てに魅了されている。
それなのに、どうしてこんなに違うのだろう。
私が間違えた時は泣いて心配した彼女の面影は何処にもない、聞こえる様に大きなため息で要領が悪いと言う。
彼女には格好付けたかったから泣き言なんて言えなかったのに、小さな事でも聞いて欲しい。
ずっと好きだった彼女が結婚した時、私は彼女の幸せを願って泣けたのに、どうしてこの子は誰にも渡したく無いのだろう。
年甲斐も無く縋り付く自分が、何なのか分かっている。
けれど、これを恋というにはあまりにも綺麗じゃない。
麦わら帽子が似合う君。
向日葵畑が似合う僕。
きっと運命だと思う。
起承転結、完璧な終わり方がある。
どんな物語にも観客がいてそれを見届けるなら彼らの満足いく結末が本当のハッピーエンドだろう。
だから、目の前で悪役とされた彼女が朽ちるのを私は黙って見ることしかできない。
この世界が救われて、平和が訪れた今救う役目であった私は喜ばなければいけない。
けれどそんな事出来なかったから、最後の力を振り切ってこの未来を変える路線に踏み込んだ。
私が望むはこの終点。彼ら傍観者が望んだ結末を変える為に、彼ら自身を消す為に。
用意された最後の台詞を言う。
「この先は平和な世界だ」