大丈夫だと言い聞かせて前を向く。
不安で押し潰される様に、肺がぎゅっと縮まった。
「上手くいかなくたっていいんだよ」
その言葉が何より辛い呪いだった。
最初から逃げ道を用意される事の、何が幸福か。
そうして私はまた完璧主義に近付いていく。
過ちから学ぶ事はもう出来ない。
プライドだけが高くなっていた。
蝶よ花よと大事に仕舞い込んできた。
壊れない様に、丁寧に丁寧に。
欲しいものは全て与えて、ありったけの愛を注ぐ。
私の人生の半分、何よりも変え難い全てを。
だから、こんな結末なんて望んでいない。
誰より貴方が大事だから、私が死ぬ迄側にいないなんて受け入れる事は到底できない。
手が震えて足がすくむ、それでも腹から湧き上がる煮立つ様な感情を押し込める事はできない。
「こんなに愛してるのに捨てるなんて」
あんなに愛した貴方を睨みつける。
それでも貴方が泣いて私に縋るなら愛を返そう。
そう考えて、貴方を抱きしめるために腕を上げると今まで声を抑えた彼女が呟いた。
「気持ち悪い」
甘い甘い視線、弾ける様な鼓動。
どうしようもない胸のときめきに締め付けられる。
きっと最初から決まっていた。
貴方は私を好きにならない。
これから先どんなに素敵な恋をして、愛を見つけられてもずっと呪いみたいに苦しめられる。
金に装飾された額縁に縁取られた貴方をひと撫でした。
きっと何処かにいると、信じて。
眩しくて、眩しくて目が眩む。
照らされた温かさから体温が上昇して自然と涙が出た。
それには何か理由があって、きっと彼女に救いを求めているからだろう。
「君は誰より美しいよ」
隠れる様に下を向いて呟く。
少し先を歩く彼女が小さな足でこちらに戻った。
「何で泣いてるの」
なんて君が泣きそうな顔で言うから、私はもっと泣きたくなって、太陽から逃れる様に君を優しく抱きしめた。
この日をずっと忘れない為に。
また明日の言葉を告げて後ろを向く。
君の足音が遠くなったのを確認して振り返った。
君はどんどん遠くに行って、一度も振り向く事はなかったから、喉元まで言いかけた言葉を音にする事が出来なかった。
どんなに後悔しても、もう遅い事は分かっている。
これから君は仇になって、次会う時は傷付けてしまう。
けれど、必ず思い出すのだろう。
あの時私達は確かに友情があった事に。