才能は花が咲く様に一瞬で、すぐに枯れてしまう。
どんなに綺麗な花でも、新しい事に価値がある様に、代替え品を世の中はずっと求めている。
だから、画面越しに輝く貴方が早く朽ちてまたあの日の様に話せる事を私はずっと願っている。
貴方は花なんて言う程綺麗じゃない。
それでも私は、花より美しいと思っているんだ。
いつからだったか、いつも良い顔をしたくて気分が乗らないと連絡を返せなくなってしまった。
ほんの少しでも気分が晴れない時は既読も付けずに、携帯を弄る。少しだけ指をズラして軽く触れれば見る事なんて出来るのに、それすら嫌になるのだ。
今日も何だか完璧に返せない気がして、話題のスイーツ特集をスクロールしている。
その時、通知に一言『助けて』の文字が流れた。
仲の良い友人からで、強かで一人で抱え込んでしまう彼女からそんな言葉を初めて聞いた。
だから衝動的に普段はしない速度で既読を付ける、嫌な予感がして冷や汗が背中を伝った。
『どうしたの』そう打ち込んで、送信しようとした時に続けて連絡が来る。
『こうしないと見ないでしょ?』
彼女が一枚上手だった様だ。
ぽつりぽつりと光出す街中をゆっくりとした足取りで帰っている。新卒で入社した会社にやっと慣れだした所で、他にも目を向ける事が増えてきた。
例えば、意外と帰り道が長い事、駅から少し離れた居酒屋の焼き鳥が良い匂いな事、存外この時間に子連れの家族がご飯を食べに行く事、そんな出来事に少しむず痒くてほんのりこの街に染まって来た様な心地になる。
そうして気付くと目の前に、自分の住むマンションに辿り着く。改めて見ると意外と大きなそれは少し自分を誇らしくさせた。ふと、今日カーテンを開けたままにした事を思い出し部屋を探す。
暗い部屋には遮断する物が無く月明かりが綺麗に差し込んでいた。
早く締めに戻ろうと視線を外した時に、灯りが着いた。
私は動揺して、目を逸らせなくなる。
そして誰かがカーテンを閉めた。
一年に一度、そんな事があっても確実に出来るのであればそれは奇跡でも何でもない。
必ず救われる物がある人間が、抜け出せるか分からない闇で生活する人間を救えるはずが無い。
だから、どうか私を抱きしめないで、手を繋がないで、愛してると言わないで欲しい。
今も貴方に囚われて、抜け出せない。
手に触れた石盤は冷たくて温もりなんてない。
貴方を呼んだ愛称は、そこに刻まれていなくていつ見ても実感がないまま、もう一度会える奇跡を求めている。
辺りは暗くなり、満員電車を抜けて腐れ縁と呼ぶに相応しいアイツと久しぶりに飲みに来た。
大人になって、酒を交わして思うのはコイツになら何でも話せるんだと実感する。
酔いが回った頭はどうも働かなくて、ふと口走った。
「お前って俺の事どう思ってる?」
それは所謂、告白の様な物できっと普段なら焦って言い訳を並べるだろうが今日はそんな気が起きなかった。
机に伏せてこちらを見ずに話し出す。
「嫌いだ、憎らしい」
そう言って寝てしまった彼を尻目に笑みが止まらない。
俺たちが友人と呼べるのはとうの昔で、今ではライバルが良い所。けれどお互い同じ気持ちだから、たまにこうして安心感を求めに来てしまう。
今日も友人だった頃のアイツを思い出しながら、酒を一口煽るのだった。