芸人ばかりがでているテレビを眺めながら、自分の尊厳さえ削られるような気持ちになる。毎日考え事をして何も手につかない。手に入れるまでてこでも動かない幼い日の私と何も変わらない。スマホの検索履歴を消去する日々。利用されたそうな君を利用している。まどろみのなか、君の大きな手がさほど私と変わらないと知ってしまった。私の頭を撫でるこの手がずっしりと重いから。滑らかにそのまま私の頬を撫でる。
君と最後に会った日、アスファルトでぐしゃぐしゃに捻じくれたマスクをじっと見つめていた。今日の仕事の失敗と明日の仕事への不安で、一刻も早く家に帰りたい。この無駄な時間。崩れ落ちる音のなかでパラレルワールドに生きている。この唐突さを責める人はいない。くだらない映画を観たときに、話したくなる君だった。
会いたい口実。会いたくない口実。会いたいが言えない。会いたくないが言えない。程よい口実をください。もう二度と会えないかもしれない人に。
私達の岐路。私達の岐路。
何も言わないままで、曇るフロントガラス。君の口癖がすっかりごめんねになった頃、その言葉をひとつ聞く度に私の過去が否定されていく。伝わっていなかった。真剣に考えていなかった。そんな言葉が簡単に信じられてしまう。「今更だよね」と君は言う。そうです。今更謝られて、将来なんて生ぬるいこと言われても阿呆らしくてやってらんない。優しく出来ない。親身になってあげられない。かなしいね。君のせいだよ。
胸が苦しい。涙が溢れる。喜びと後悔。期待と後ろめたさ。隙間をぬってパラレルワールドに生きたい。君の手を掴めず、いつの間にかこっそりひっそり妄想の狭間。正しくはなくとも楽しく。打ちつけないで埋まる君も見える。世界と対峙したときに、石敷のきらめきにときめくのがわたしでした。時が戻るのを感じている。波が引いて、満ちてゆく。選んだ先に待つ天国と地獄。行ってみたい。行ってみたい。