夜中に目が覚めた。最近、よくある事だ。
別に変なことをした訳でもないし、体調が悪い訳でもない。ただ、気持ちが揺らいでしまうのだ。
ボスとペアを組んでもうだいぶ経っただろう。そろそろ言うべきなのか?オレの気持ちを。
「なんて言えばいいんだろ……」
頭をかきむしって、思い悩む。
この恋の行方は神様だけが知っている。
今日は仕事が早く終わり、エリオは早めに帰宅することができた。いつもなら真っ直ぐ家に向かうのだが……
「ボスだったらどのおやつが好きかな……」
今日はオレの上司(ボス)の家に泊めてもらう。たまにはいいでしょみたいな雰囲気で言ったら意外とあっさりOKしてくれた。なんでかは分からないけど。
ボスは見た目にそぐわず大の甘党だ。おやつをあげたらすぐに食いつく。空腹の犬か?ってぐらいに。まあ、その食いつき方が可愛いんだけどね。
エリオはレジ袋片手にコンビニを出た。この道をずっと先に行ったらボスの家がある。エリオは軽い足取りで津詰の家に向かった。
「今日は何作ってくれるのかな、ボス」
朝起きて、窓から差し込む日差しが薄目に入ってもう一度目を閉じてしまう。
今日はどんな夢を見たっけ……と思い出そうとしても忘れてしまう。
もう一度目を開けるとまた日差しが目に入る。でも、今度は眩しくは無い。
そんな時、僕は今日も頑張ろうって思える。
「時刻は午後四時を回りました……」
適当につけていたラジオからそう言われた。休日の時の流れとはまるで特急電車のように速く過ぎてしまうものだ。いつも1日48時間を願うのもこのせいだ。
2人分の夕食の準備をワンオペで行うのもだいぶ慣れてきたが、時間はかかる。今日の夕食は肉じゃがだ。不器用ながらも自分なりに丁寧に切った材料は鍋の中で光っているように見えた。
ふと、顔を上げ、正面の窓を見た。空はオレンジの絵の具がこぼれたような綺麗な夕焼け空だった。
(ボスももうすぐ帰ってくるかな)
そう思い、エリオは鍋の火を止めた。
※二次創作!許して!
いつからだろうか。オレがあの人のことを好きになったのは。
オレが"津詰徹生"という男を知ったのは警察学校時代だ。色んな講義を受けているときに、その名前、功績を聞かされた。オレはその時から"津詰徹生"に"尊敬の念"を抱いていた。
あるいはその頃からオレとボスは赤い糸で結ばれていたのかもしれない。
そして、警察学校を卒業し、数年経った頃、オレが念願の捜査一課に入り、あの人と一緒に仕事ができるという気持ちで胸を希望で膨らませていた。しかし、あろうことか、あの人は俺と入れ替わりで捜査一課から外れてしまった。その時の絶望感といったら言葉にできないほどだった。希望の風船は針に刺されて割れ、胸に大きな空虚が現れた。
(これがオレの運命ってやつか……)
そう嘆いて落ち込む日々が数日続いた。
捜査一課として過ごす日々を淡々とすごし、変わり映えのない毎日を歩いていたとき、オレの耳に吉報が飛び込んできた。
(津詰徹生が捜査一課に帰ってくる)
オレはそれを聞いた日から3日ほど眠れなかった。おかげでそのときはどれだけ睡魔と戦わされたことか……。
オレが対面でボスにあったのはその時が初めてだ。見た目は強面の渋い顔で、威厳を放っていて、正直近づきがたかった。
しかし、一緒に仕事をしていると意外とかわいい部分を見せていた。例えば、甘党で甘味が好物だったり、場を和ませるギャグを言ってくれたり……。オレはそのギャップに見事にハマってしまった。それ以来、オレの津詰徹生に対する尊敬の念は恋愛感情へと姿を変えていた。
オレの胸の風船を割った針の穴に赤い糸が通り、結ばれたのだ。
「……おーい、エリオー。どこ見てんだー?」
突然オレの前で手らしきものが上下に動くのが見えた。
「っ!ぼ、ボス、す、すみません。つい、考え事をしちゃって」
「ったく、ちゃんと集中して仕事しろ、仕事」
「オッケ〜、ボス〜」
「あ、ボス、急なんですけど、手、出して貰えませんか?」
「あ?なんだ?俺の手で何か実験でもするのか?」
「そんなことしませんよ〜、いいから出してください」
「しょうがねえな。ほら」
俺の前には年季の入った皺が少し刻まれた大きな手が出された。そして俺はその小指に赤い輪っかをはめた。
「……これって、お前……」
「そうです、わかってますよね、ボス」
「……ん、分かってるよ、エリオ」
「オレたちはこの赤い糸でいつも結ばれていますからね。この糸はどんな鋭利なハサミでも切れないようになってますから、安心してください、ボス」
「うっ、何か少し気持ち悪いが、まあ、いっか」
ボスは若干顔を顰めてたけど、オレと気持ちは変わらない。オレの気持ちはちゃんと伝わっているはずだ。
今度は、小指に赤い輪を嵌める代わりにボスの薬指に銀の輪を嵌めよう。
エリオはそう心の中で誓った。