ある日の午後1時、某公園にて、
「ボス、あれって入道雲ですよね?」
「おぉ〜、でかいなぁ〜。あんなにでかいヤツ久しぶりに見たわ」
「入道雲見ると、夏って感じしますね」
「暑いのは勘弁して欲しいが、こういう季節特有の景色が見れるのは趣があるな」
「ボスってこういうの、好きなんですね。周りの風景なんて興味無いと思っていました」
「さすがにそんなことは無いだろ。俺をなんだと思ってるんだ?ただのお仕事ロボットだとでも思ってたか」
「冗談ですよ、景色の風情を感じられる心がボスにあることぐらい、オレはちゃんとわかっていますよ。ところで、そろそろ休憩を切り上げて戻りませんか?」
「お、おう、午後も頑張ろうな、エリオ」
いつもこの季節になると無性にアイスを食べたくなる。近くのクーラーの効いたコンビニに入り、ショーケースを開けて、手を突っ込む。まるで氷水に手を浸したような感覚を覚え、とても気持ちが良い。バラ売りの棒アイスを2本、片手に持ってレジへと向かう。この時、自然と足取りが早くなる。なぜだろうか。
コンビニを出るとモワッとした熱気が前から風と共に襲ってくる。身体中の汗腺から水が滴り、一瞬にしてワイシャツは水浸しになる。
駐車場の車に戻ると、車の中には、額を腕で拭っていた、こんな暑い中長袖の黒シャツを腕まくりしている恋人の姿があった。
「おう、買ってきたか」
「ええ、ボス。やっぱりこんな暑い日はアイスに限りますよね」
「そうだな。それじゃ、俺に1本くれや」
夏の猛暑の中、2人で過ごす時間は、熱くもありながら、アイスで冷やされる、爽やかなものであった。
積んだままの本が壁となった布団の横で添い寝をした。
次の朝、目を覚ましたらボスの姿は無い。仕事に行ったみたいだ。
鉄の塊のように重い頭を起こし、深いため息をついた。疲れはまだ完全に取れていない。だけど、ボスの背中を追いかけるために、この体を起こさなければ。
オレはあの部屋が大好きだ。