黒山 治郎

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5/14/2025, 1:18:40 AM

後頭部の辺りがじんわりと熱を帯び
瞼の裏では誰かの断片が波となり踊る
そうして、海馬から眼球へと流れては
何でもなかった日々が夢物語に変わる。

曙に溶けて消える、記憶の海の話。

ー 記憶の海 ー

4/22/2025, 7:28:43 PM

私の身体に染み渡る声で
貴方は“別れるかもしれない”なんて
ちょっぴり残酷なことを言う。

それも、酷く酔った夜に寝てしまう直前で
それが怖いなんて、怖気付きながら
心底、細く弱った声で言う。

理想と現実に苛まれる事を恐れるのはお互い様だ。
けれど、その感情を知る前に
未知だからと切り捨てるには
私達は互いに情が募りすぎた。

過去に、聞いてと誰かの裾を引いた時
幼かった手は簡単に振り払われたけど
貴方は聞く度、色んな“返事”をくれた。

振り払わない人は、それだけで珍しかった。

振り払わない理由が知りたくて
色んな時にも聞いてみた。

どんな時でも、貴方は変わらず返事をくれた。
好きだと伝えた声も言葉も欠かさない人だった。

これだけ沢山の言葉を丁寧にくれたなら
いつか、来るであろう別れの言葉も
貴方はきっと欠かさないんでしょう?

なら

私、貴方を諦める気には到底なれない。
さようならの、その後でも
丁寧な貴方なら言葉を返してくれるでしょう?

信用が拗れた確信犯へ
貴方が根負けして笑い出すまで
“友達”として傍に居座ってやるつもり。

ー big love! ー

なんて、純粋なだけでは終わらない。

3/31/2025, 10:50:39 PM

微塵切りの息の先
ぺトリコールの道標
天使の梯子は雲を割り
昇ってく君を遠目に見上げて
虹のたもとで一つだけの影送り

少年の強がった再会の約束は
足元の弱いライオンだけが知っていた。

ー またね! ー

3/28/2025, 1:03:11 AM

花筏に溢れた道路脇の水路
田んぼ道に少し零れた薄紅色
雨上がりの朝焼けの下
花盛りな春の始まりは
天真爛漫な突風に急かされて
名も無き誰かへ報せたいと
今まさに、空を舞い進む。

ー 春爛漫 ー

1/21/2025, 9:27:52 PM

いつかの光を夢見る先行きへの不安
なおも膨らみ続ける胸と鞄の中身
正しく向き直り続ける水盆の中心針


針が示すのは、方角だけではなかった。

航路から後戻りという選択肢を消して
この進路が足元を泥濘るませない事を祈る。

縮込めていた背と共に、小さな帆を風で張り
利き手の指が白くなる程、舵輪を強く握り締め
仕上げにと溺れ慣れた顔を大きく拭った。

夢物語の出航を告げる鬨の声は 一つ。

ー 羅針盤 ー

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