黒山 治郎

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8/1/2024, 9:18:32 AM

目まぐるしい感情の波と
距離を置いていたいだけ。

ー だから、一人でいたい。ー

7/30/2024, 8:57:11 AM

“ 刹那、嵐がこようとも。”

玲子(れいこ)は夜職の疲れに翻弄され
夜風に流されるまま缶チューハイを片手に
工場夜景を眺望できる駅近くの公園へと
無意識に辿り着いてしまっていた。

「嗚呼、もう…!
庇ってくれる人の一人も居なけりゃ
アタシにだけ夜風は随分と冷たいもんねッ!?」

有名な夜景スポットである為
愛を語らう人々はそこそこに溢れ
泣き上戸で独り身の玲子だけが
夏の夜風に頬を冷やされて
また冷め醒めと涙を落としていた。

自暴自棄の酒食らいでは
いくら見目麗しかろうと
素行不良は一目で知れ渡り
どれだけ細く柔い肩であろうが
撫でてやろうという好き者は
この公園を出て後でさえも
ついぞ、現れはしなかった。

「どいつもこいつもッ!
お高くとまっちゃってさッ!
泣いてる女の一人も慰めないなんて!
冷酷非情な輩しか居ないってわけね!?」

公園からの帰り道は街灯も少なく
酷く暗いものであったが
荒んだ玲子は、むしろ構えといった風体で
肩で風を切りズンズンと突き進んだ。

橋の上を通りがかった時
ゴウンゴウンと鳴る工場群に共鳴する様に
玲子の侘しさは心臓をはち切らんと
内部でうねり出し、のたうち回っていた。

「明日なんて、アタシいらないのに」

胸の内の膨れ過ぎた侘しさは
その一言の後に取り込んだ海風で
見る間もなく大きく寂びついてゆき
鉛よりも重く玲子の体を支配した。

思う様には動けぬ女を
夜風は無情に端へ端へと追い立てる。

手摺りへと流れた洗濯物の様に
撓垂れ掛かる酔った女が独り
ピクリともしないまま
夜より深いであろう河を眺めていた。

「何してんだアンタッ!
馬鹿な真似してんじゃねぇ!!」

強引な手つきと鋭い叱責の声に
手摺りから身は引き離され
玲子は否応がなしに声の主と相対する。

「若い身空で、一体何を考えてんだ!
他にやりようなんざ幾らでもあんだろう!?」

声を出す暇さえ此方には与えぬ
粗野な育ちを感じさせる作業服の男
細い女を支える荒れた手だけが
この男は小心者なのだと声も無く笑った。

「もう、独りは嫌だったの
明日なんかいらないんだったらぁ

分かんないなら手を離してよぉ…」

押し返そうにも人に触れ合えた安心感が
四肢の末端までもが悴んだ様に
緊張を解いて、力を入れられずにいた。

言葉を多くは知らない男は
不器用な手付きで女を掻き抱き
少ない辞典を脳内で必死に捲り
思わず、と叫んだ。

「俺が!俺が一緒にいてやるから!
なら、死ぬ事なんて無いだろう!?」

女は泣きたいという感情を表情から落とし
男の言葉を理解しようとしている。

どれ程、そうして抱き合っていたのか
玲子は今まさに吹き始めた感情のざわめきに
胸中を掻き乱すであろう嵐の予感を
生々しく、その身で感じざるを得なかったのだ。

ー 嵐がこようとも ー

7/29/2024, 8:52:34 AM

豊穣を祈り
     収穫を祝い
人々は集う
     舞いを奉納
地も、人も
     豊かであれ
個々の願い
     束になりて
色彩豊かで
     心すら豊か
賑わいの音
     祭囃子の音
見紛う程に
     夜は更ける

    ー 祭り ー

7/28/2024, 5:04:14 AM

者共、いい加減にせぬか。

口々に挨拶もせず慇懃無礼に願いばかり宣うが
利己的に擦り寄る輩なんぞ数えてもられん
叶うかどうかを無意味に心配する前に
少しは、天罰が下るやもと恐れたらどうなのだ。

とはいえ、土地神たる我々が
こうして地に足を下ろしてしまっては
もう手遅れではあろうがな…。

反省を終えたと我らが判断するまで
ここいらの土地は不毛不作と荒れ果てるだろうが
まぁ、言ったとて無作法者等に
我々の欲する反省の意味が
理解出来る時が来ればよいがねぇ…。

ー 神様が舞い降りてきて、こう言った。ー

7/27/2024, 7:33:22 AM

事の発端は些細で
本当に粗末な理由だったよ。

「誰かに知って欲しかった」

たったそれだけの行動理念に
聞き手である事が得意だった幼少期が合わさり
文字を覚えてからは記者を志す様になった。

語彙のパズルは時代と共に変化し
飽きる事も無く、記者への道は明るく思えた。

だが、現実は…社会は違ったよ。

需要と供給にそぐわぬ物語は修正液に塗れ
冤罪を解く為に見聞きした一部始終は
上が好んだ場面だけが切り抜かれ縫合され
ノンフィクションはフィクションになるんだ。

君なら耐えられるかい?
少しでも誤解を晴らす助けになれば…
少しでも事実を知る人が増えれば…
そう思い、言葉をいくら連ねようとも
上が検閲して少しでも気に入らなければ
無惨にシュレッダーが食い散らすんだよ。



さぁ、もう分かっただろう?
私はもう君達を手伝える心強い記者ではなく
望まれた話を描くゴーストライターでしかない
“誰かの為に”だとか、そんな浅い行動理念じゃ
君達もゆくゆくは私と同じになるだろうね…。

ー 誰かのためになるならば ー



【作者の戯言】
一度突き放した後に若者達の活力に当てられて
結局は後半で実力を発揮してしまうタイプの記者

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