黒山 治郎

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事の発端は些細で
本当に粗末な理由だったよ。

「誰かに知って欲しかった」

たったそれだけの行動理念に
聞き手である事が得意だった幼少期が合わさり
文字を覚えてからは記者を志す様になった。

語彙のパズルは時代と共に変化し
飽きる事も無く、記者への道は明るく思えた。

だが、現実は…社会は違ったよ。

需要と供給にそぐわぬ物語は修正液に塗れ
冤罪を解く為に見聞きした一部始終は
上が好んだ場面だけが切り抜かれ縫合され
ノンフィクションはフィクションになるんだ。

君なら耐えられるかい?
少しでも誤解を晴らす助けになれば…
少しでも事実を知る人が増えれば…
そう思い、言葉をいくら連ねようとも
上が検閲して少しでも気に入らなければ
無惨にシュレッダーが食い散らすんだよ。



さぁ、もう分かっただろう?
私はもう君達を手伝える心強い記者ではなく
望まれた話を描くゴーストライターでしかない
“誰かの為に”だとか、そんな浅い行動理念じゃ
君達もゆくゆくは私と同じになるだろうね…。

ー 誰かのためになるならば ー



【作者の戯言】
一度突き放した後に若者達の活力に当てられて
結局は後半で実力を発揮してしまうタイプの記者

7/27/2024, 7:33:22 AM