最後なんて思わなかった。
だって、何でもない日だったんだ。
いつも通り互いに時間が合ったから
二人でぶらついて、遊んで
飯も食いに行ってさ。
帰り際もまた遊ぼうなって
お互いに笑いあった筈なんだよ。
いとも簡単に消え去った君に
現実感なんて到底、感じられなくて
一ヶ月の間を置いてから
君とふざけて回した
ガチャガチャのキーホルダーが
鞄の底から不意に出て来て
あれが本当に最後だったんだって
胸が軋む程、思い知らされたんだよ。
ー 君と最後に会った日 ー
霧の中の恋が咲く
季節は春と夏の半ば過ぎ
ラフな部屋着のままの君は
湯冷めも気にせず香りを残して
一つのアイスを買って帰った。
…寂しくは、ないのかな。
少なくとも、僕は…。
なんて仕事終わりも君ばかり
この辺では聞かない訛りで
不慣れな笑顔を向ける君が
気になって、しょうがなくて。
別の日に出された
支払い用紙に書かれた名前
苗字は知っていたけれど
下の名前はお花みたいで綺麗だ。
心の中で何度か反芻してみる
無用心に差し出された住所は
…流石に見なかった。
だって、自分の足で
君の元まで行きたかったし
近所だとは知っているからね。
僕の気持ちを欠片も知らずとも
肌寒い霧の中の恋だとしても
君へ辿り着けると確信したんだ。
いつの日か必ず気持ちを
芽吹かせられる様にと
願いを込めた花を携えて
このクロタネソウを、愛しい君へ。
ー 繊細な花 ー
流石に一ヶ月ちょっと前に書いたお題と同じだと
正直、書く気は湧いてこないなぁ。
最近は似た様なお題が増えたかなとは思っていたが
前回の一年後と今回の1年後のお題に関しては
数字の表記違いだけなので
あまりにも、雑だと感じてしまう…。
ー 1年後 ー
打ちっぱなしのコンクリート剥き出しの階段
螺旋の途中の踊り場は冬は特に冷ややかだった。
どんな声を上げようが、響くだけで返っては来ず
虚しさだけを溜め込んでブリキの扉を開く。
上等な靴箱なんて物も無く玄関先は味気無い色で
散らかった見知らぬ爪先が示す奥では
身知った声の変わり果てた様を聞かされた。
意図せず向かい合った木戸の先へ駆け込んで
いっそ便器と向き合ってしまおうか?
しかし、吐き出せる内容物などは最早無い。
拭い方も知らぬ不快感に酩酊する脳味噌では
靴を脱ぐ事すらも億劫で、ブリキの扉へ背を預け
ずるずると緩慢な動作で腰を落とす度に
意識も瞼も落ち込んで睡魔へ浸かりこんでゆく
後頭部がキンと冷えて目の奥が点滅する。
ここで寝てしまったら、邪魔になってしまう。
後ろ手にドアノブを捻れば
また冷ややかなコンクリートへ逆戻りだ。
背骨の一部を強かに打ち付けたが
元より傷んでいた身体ではこれ以上痛みはせず
子供の自分には乗り越えられない手摺りの先で
冬の晴れた空だけは無粋な程に青かった。
何時になったら、私は家へ帰れるのか。
迷い子とは癒えぬ病ではないかと
あの頃は、そうとしか思えなかったな。
ー 子供の頃は ー
常とは、何処からが常なのか。
普通、常識、平凡、平素、当然。
そして、いつかは必ず終わりが来る日常。
母に金切り声で普通を強要される子供は
一つの異常も持たずに育つ事が出来るのか?
母や父の異常には目をつぶる様にと
呪詛の様に言い聞かされた子供は
いつか同じ事をしないだろうか?
常ならむとは、大変に愉快な言葉であると
私はどす暗い腹の内を抱えて
皮肉な事に、其れこそ常々思うのだ。
自分は変わりたくないが
他人を変えることは厭わない
そんな思想家達の渦中に溺れ
心を日々の最中ですり減らし
何時しか、直せぬ異常の数に
その身を乗り出してしまったならば
花火よりも短く、地面へと咲く。
ほら御覧よ、日常なんぞ
何とも並べず儚いだろうに…。
言葉で定義出来る事は知性の賜物
而れども、曖昧とは悪では無い。
ー 日常 ー