黒山 治郎

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打ちっぱなしのコンクリート剥き出しの階段
螺旋の途中の踊り場は冬は特に冷ややかだった。

どんな声を上げようが、響くだけで返っては来ず
虚しさだけを溜め込んでブリキの扉を開く。

上等な靴箱なんて物も無く玄関先は味気無い色で
散らかった見知らぬ爪先が示す奥では
身知った声の変わり果てた様を聞かされた。

意図せず向かい合った木戸の先へ駆け込んで
いっそ便器と向き合ってしまおうか?
しかし、吐き出せる内容物などは最早無い。

拭い方も知らぬ不快感に酩酊する脳味噌では
靴を脱ぐ事すらも億劫で、ブリキの扉へ背を預け
ずるずると緩慢な動作で腰を落とす度に
意識も瞼も落ち込んで睡魔へ浸かりこんでゆく
後頭部がキンと冷えて目の奥が点滅する。

ここで寝てしまったら、邪魔になってしまう。

後ろ手にドアノブを捻れば
また冷ややかなコンクリートへ逆戻りだ。
背骨の一部を強かに打ち付けたが
元より傷んでいた身体ではこれ以上痛みはせず
子供の自分には乗り越えられない手摺りの先で
冬の晴れた空だけは無粋な程に青かった。

何時になったら、私は家へ帰れるのか。

迷い子とは癒えぬ病ではないかと
あの頃は、そうとしか思えなかったな。

ー 子供の頃は ー

6/23/2024, 9:16:47 PM