黒山 治郎

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霧の中の恋が咲く

季節は春と夏の半ば過ぎ
ラフな部屋着のままの君は
湯冷めも気にせず香りを残して
一つのアイスを買って帰った。

…寂しくは、ないのかな。
少なくとも、僕は…。

なんて仕事終わりも君ばかり
この辺では聞かない訛りで
不慣れな笑顔を向ける君が
気になって、しょうがなくて。

別の日に出された
支払い用紙に書かれた名前
苗字は知っていたけれど
下の名前はお花みたいで綺麗だ。

心の中で何度か反芻してみる
無用心に差し出された住所は
…流石に見なかった。

だって、自分の足で
君の元まで行きたかったし
近所だとは知っているからね。

僕の気持ちを欠片も知らずとも
肌寒い霧の中の恋だとしても
君へ辿り着けると確信したんだ。

いつの日か必ず気持ちを
芽吹かせられる様にと
願いを込めた花を携えて

このクロタネソウを、愛しい君へ。

ー 繊細な花 ー

6/26/2024, 9:31:11 AM