こういう匿名の場所なら書いてもいいか〜
とはならないのが、私だ。
唯一言える秘密といえば、煙草ぐらいだろうか。
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ー 誰にも言えない秘密 ー
扉の外にがちりと付けられた錠前が
閉じられているとは知りたくなかったから
こちらから見えないことは幸いだった
狭い牢獄は私次第で城となり
窓の外に関心さえ向かなければ
大抵の事は幸せなのだと思えていた
朝月夜を背景に飛ぶ鳥が朝を告げ
吹き込む風が香りという便りを置いてゆき
夕暮れという友が部屋の中を駆け抜け
灯りを混ぜ過ぎた夜の帳も下りた頃には
星達も空に敷かれた布団に潜り隠れんぼ
手元の薄い毛布でも夢は暖かく鮮やかで
ある物だけを数えれば
食うにも困らず
雨風にも晒されず
袖を通せる衣服がある
なんと贅沢で幸せな事だろう
いつかは覚めると知っているから
私の城は豊かなのだと安心出来るのだ。
願いは一つ、目が覚めない事に違いない。
ー 狭い部屋 ー
飲みきらずに席を立った君を
安っぽい炭酸飲料は引き留められず
結露が広げる水溜まりに冷めるように
向かいの席もまた、温もりを失い始めていた。
深夜まで営業している家族向けの飲食店は
この状況下では皮肉にしか取れず
貴方が拒んだ素直に泣けない私は
その手酷い追い打ちに空元気な声だけを
ほろほろと机へ落とす事しか出来なかった。
「君とさ、家族になってみたかったんだ
随分と気付くのが遅過ぎたけれど」
引き損ねた袖の残像が
去り際に振られた手と重なって
積まれた後悔の痕跡に顔を伏せ
ようやく私は、君が望んでいた
涙を零す弱々しい女になれたのだと知った。
ー 失恋 ー
いつも、自分の事は真面目を装った
ただのクズ野郎だと思ってるよ。
それにしても…
二個も書けなかったお題があるってのが
なんとも口惜しいなぁ。
ー 正直 ー
寿命という夢が儚く消えた時から
心の根付く場所を探し歩き
身を屈め土に触れては違うと頭を振り
己の終わりだけを願って旅を続けてきた。
「此処では無かった…
この密度の高い土では私の心は混じれない」
まだまだ歩いている
靴底が擦れて無くなっても
寝付ける場所だけを求めて
人混みをすり抜け、植物は踏み固めた。
「此処でも無いか…
生き物の多い土は余りに踏まれ過ぎて固い」
服の端もはらはらと解れているが
それでも踏み出す足は止まらず進む
手入れもされない髪は女性の様に長いまま
情緒も無く手付かずの雪原へ足を放った。
「此処でも無かった…
この土地は、眠るには余りにも余所者に冷たい」
何処だ、私は一体どこでなら
泰平を胸に抱き安らかに眠れるのだろう
この両瞼は何時から閉じていないのか
川の粼でさえもが眠りを妨げている気がした。
「違う…こんな場所では無い…
川の濁流に飲まれでもすれば眠れもしない」
草木を押し退ける様に手を置き脚を引き摺る
ここは違う、ここも違う、ここすら違う
刹那の時に凪いだ海面へ映りこんだ自分の姿
血濡れの手足を引き摺り血眼は鋭く
骨と皮だけになる程に痩せこけた己の姿は
誰が見ても違えようもなく…
死も生も忘れた、ただの怪物であった。
「あぁ…あぁあぁぁ!!
嫌だ!私は、私は化け物なんかじゃない!
私は、私…は…わ た し は
一体、誰だった…?」
ー 終わりなき旅 ー