黒山 治郎

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飲みきらずに席を立った君を
安っぽい炭酸飲料は引き留められず
結露が広げる水溜まりに冷めるように
向かいの席もまた、温もりを失い始めていた。

深夜まで営業している家族向けの飲食店は
この状況下では皮肉にしか取れず
貴方が拒んだ素直に泣けない私は
その手酷い追い打ちに空元気な声だけを
ほろほろと机へ落とす事しか出来なかった。

「君とさ、家族になってみたかったんだ
随分と気付くのが遅過ぎたけれど」

引き損ねた袖の残像が
去り際に振られた手と重なって
積まれた後悔の痕跡に顔を伏せ
ようやく私は、君が望んでいた
涙を零す弱々しい女になれたのだと知った。

                    ー 失恋 ー

6/3/2024, 5:37:54 PM