狼星

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9/16/2023, 1:01:45 PM

テーマ:空が泣く #307

「まるで空が泣くようね」
私のお母さんは急に降り出した雨を見つめていった。
「ママ?」
私はなんだかそれを見てお母さんの手を不意に握る。
私のお母さんは突然変なことを言う時がある。
ボーッとしていて
知っているお母さんじゃなくなっているみたい。
そんな時私はお母さんの手を握る。
そうするとお母さんは何度か瞬きをしてから私を見る。
「どうしたの?」
不思議そうな顔をしてそう言う。
まるで何もなかったかのように。

「お母さんはね、見えるんだよ」
おばあちゃんが言った。
おばあちゃんいわく、
小さい頃からお母さんには見えているらしい。
他の人には見えていないソレが。
「私にも見えるかな」
おばあちゃんに聞くと、
おばあちゃんは目を丸くしていた。
「見えるようになりたいのかい?」
私はう〜ん……と考えてから言った。
「だって、ママと同じ世界を見たいから。
 ママ、一人ぼっちは寂しいでしょ?」
私がそう言うとおばあちゃんは私を見て微笑んだ。
「そっか」
そう言うと私の頭を撫でた。
そして私の顔をまっすぐ見て言った。
「でもね、彼らの世界に引き込まれちゃ駄目よ。
 戻れなくなっちゃうから。
 これだけはおばあちゃんとの約束ね」
その言葉の意味が当時の私にはわからなかった。
小さい頃のことだったから。
でも今ならわかる。
『彼らの世界に引き込まれちゃ駄目』という意味が……

9/15/2023, 1:19:09 PM

テーマ:君からのLINE #306

君からのLINEを待ってもう2年が経つ。
元気にやっているか? とか
久しぶりに話したくなった。とか
そんなことを入れるのが君とのLINEだと
やけに緊張する。
明日でいいかとそのままにして、
自分から逃げて
現実から逃げている僕がいる。
君からのLINEを待っているカッコ悪い僕がいる。
勇気を出せよ。
僕は深呼吸して君とのLINEの画面を開く。

9/14/2023, 1:15:58 PM

テーマ:命が燃え尽きるまで #305

命が燃え尽きるまで
絵にこだわった男がいた。
変わった男だと皆言った。
そんな彼にも一人の友がいた。
友は体が弱く、目が見えなかった。
その男の描いた絵も見ることはできない。
男は一生懸命自分の絵を描いては友に見せる。
そして話す。
自分の作品について。
友だけは自分の作品に触れていいと男は言う。
友は男の作品を見ることはできない。
でも想像した。
感じた手触りや男の作品についての話から
想像を膨らませた。

命が燃え尽きるまで
絵にこだわった男がいた。
友がこの世を去ったその日にも絵を描いた。
何かに取り憑かれているかのように
何時間もキャンパスと向き合った。
腹が鳴っても
眠気で目が痙攣し始めても
汗が頬を伝っても
決して手を止めることはなかった。

命が燃え尽きるまで
絵にこだわった男がいた。
彼は絵に囲まれたまま
眠ったように深い眠りについていた。
彼の手には筆が一本。
最後に描いていたであろう作品は
一人の男が微笑む絵。
目は固く閉ざされていたものの
穏やかな表情でこちらに微笑んでいる。

命が燃え尽きるまで
絵にこだわった男がいた。



♡3800.ありがとうございます。

9/13/2023, 1:52:40 PM

テーマ:夜明け前 #304

夜明け前の静かな時間が好き。
まだ誰も起きていないようなそんな雰囲気が。
そして
また今日が始まるのだという緊張感。
なんとも言い表せない
そんな空気感が好き。

9/12/2023, 1:24:30 PM

テーマ:本気の恋 #303

―小説の参考にするために
本気の恋を求めて、君を。
好きでもない君をモデルにした。

勝手に私の中でモデルにしたの。
あなたが私の小説の中で動いていることを想像した。
その内に私の中でなにかが変わってしまった。
君のことなんて好きじゃなかったはずなのに。
いつからだろう。
本気の恋(偽)から『本気の恋』になったのは。

真っ直ぐに私に向き合ってくれていたあなたに
真実を告げることができない、
意気地なしな私を許してください。―

僕の彼女はこんな手紙を僕の机に残し
いなくなっていた。
僕は知っていた。
彼女が僕に向ける想いが普通の人とは違うことを。
僕は知っていた。
そんな彼女に惚れてしまった自分を。
本当に結ばれなくってもいい。
一生懸命な姿を見ていられるのなら、
例え自分がただのモデルとして見られていても。

彼女は気づいてしまった。
自分が本気の恋をしていたことに。

僕は彼女のそばにもういられないのか?
そんな勝手なことさせない。
彼女が僕に話してくれたように
僕も彼女に伝えよう。
僕は彼女の手紙を机に置き
家を出た。

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