狼星

Open App

テーマ:命が燃え尽きるまで #305

命が燃え尽きるまで
絵にこだわった男がいた。
変わった男だと皆言った。
そんな彼にも一人の友がいた。
友は体が弱く、目が見えなかった。
その男の描いた絵も見ることはできない。
男は一生懸命自分の絵を描いては友に見せる。
そして話す。
自分の作品について。
友だけは自分の作品に触れていいと男は言う。
友は男の作品を見ることはできない。
でも想像した。
感じた手触りや男の作品についての話から
想像を膨らませた。

命が燃え尽きるまで
絵にこだわった男がいた。
友がこの世を去ったその日にも絵を描いた。
何かに取り憑かれているかのように
何時間もキャンパスと向き合った。
腹が鳴っても
眠気で目が痙攣し始めても
汗が頬を伝っても
決して手を止めることはなかった。

命が燃え尽きるまで
絵にこだわった男がいた。
彼は絵に囲まれたまま
眠ったように深い眠りについていた。
彼の手には筆が一本。
最後に描いていたであろう作品は
一人の男が微笑む絵。
目は固く閉ざされていたものの
穏やかな表情でこちらに微笑んでいる。

命が燃え尽きるまで
絵にこだわった男がいた。



♡3800.ありがとうございます。

9/14/2023, 1:15:58 PM