狼星

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テーマ:空が泣く #307

「まるで空が泣くようね」
私のお母さんは急に降り出した雨を見つめていった。
「ママ?」
私はなんだかそれを見てお母さんの手を不意に握る。
私のお母さんは突然変なことを言う時がある。
ボーッとしていて
知っているお母さんじゃなくなっているみたい。
そんな時私はお母さんの手を握る。
そうするとお母さんは何度か瞬きをしてから私を見る。
「どうしたの?」
不思議そうな顔をしてそう言う。
まるで何もなかったかのように。

「お母さんはね、見えるんだよ」
おばあちゃんが言った。
おばあちゃんいわく、
小さい頃からお母さんには見えているらしい。
他の人には見えていないソレが。
「私にも見えるかな」
おばあちゃんに聞くと、
おばあちゃんは目を丸くしていた。
「見えるようになりたいのかい?」
私はう〜ん……と考えてから言った。
「だって、ママと同じ世界を見たいから。
 ママ、一人ぼっちは寂しいでしょ?」
私がそう言うとおばあちゃんは私を見て微笑んだ。
「そっか」
そう言うと私の頭を撫でた。
そして私の顔をまっすぐ見て言った。
「でもね、彼らの世界に引き込まれちゃ駄目よ。
 戻れなくなっちゃうから。
 これだけはおばあちゃんとの約束ね」
その言葉の意味が当時の私にはわからなかった。
小さい頃のことだったから。
でも今ならわかる。
『彼らの世界に引き込まれちゃ駄目』という意味が……

9/16/2023, 1:01:45 PM