そこ

Open App
1/24/2026, 6:31:50 AM

こんな夢を見た。
世界は一本の線で区切られていた。赤茶けた剥き出しの土と濃い青空。遠くに山々の稜線が見える。
右側は晴天。左は曇天。
世界を区切る線の上に、少女が立っていた。
くしゃくしゃの巻き毛の赤毛。頰に散らばる大きなそばかす。首元から指先まで白いレースに埋もれているようだった。
少女は笑う。
どっちがいい?
どっち、とは?
晴れと雨、どっちがいい?
では雨で。
雨がいいのね。じゃああっちに歩いて行きなさい。
少女は右を指差す。逆ではないのかと問いたかったが、わたしは何も言わずに晴れ空の下を歩き出した。
乾いた空気。砂のよう土を踏む感覚。足の下で踏み潰される土が軽い音を立てる。乾いた空気にいつのまにか水のような匂いが漂っていた。
空を見上げると曇天になっている。折よく雨粒が鼻先に落ちた。
ああ、雨が降るのか。
振り返ると、背後の曇天は晴れ渡っていた。その中で少女は両腕を伸ばして踊る。小さな歌声が聞こえた。明るい曲なのに何故か泣き声のようにも思えた。
雨粒が大きくなり、強く降り出す。ああ、歌が聞こえない。
先程まで微笑んでいたのに、少女は今泣いているのだろうか。
そこで目が覚めた。

1/22/2026, 3:59:57 PM

タイムマシーンがあったら、どっちに行く? 過去と未来
んー、未来かな。
どうして未来? 過去の方がよくない?
未来に行って、これからどうなるか教えてもらうの。失敗したこととか後悔してることとか。で、そうならないようにする。
ふーん、そんなんでいいの?
なにその反応。もしかして宝くじ当てようとか考えてる?
考えてるよ。だってそしたらずっと遊んで暮らせるじゃん。そのほうがいいでしょ。
不純だなー。知ってる? タイムマシーンがいちばん最初に登場した小説、いや作ったって設定のひとはね、恋人が死ぬ運命を改変したくてタイムマシーンを作ったんだよ。
うん。で?
だからーそんな宝くじ当てたいみたいな欲望のために使っちゃいけませんって話。
なにそれ、どう違うのかよく分かんないんだけど。
西陽が教室に差し込んでいた。
スカートの厚い生地を通して伝わる机の冷たさ。椅子に座る友人を見つめながら、わたしたちは他愛もない会話をしていた。
ほんとうに何度も繰り返した日常。ありふれた記憶。でもこの日だけは思い出すたびに泣きそうになるの。
タイムマシーンがあるのなら、わたしはこの日に帰りたい。
そして同じ会話をして、笑いながら教室を出て、夜になる前の時間を駅までふたりで歩く。
この日に帰りたい。

1/20/2026, 4:22:39 PM

海の底の夢を見る。
わたしは人間の形をしてなくて、きっと海中の魚か、泳いでいる爬虫類の形をしていて、水底から空を思い描いて、波の向こうを見ようと、差し込むこの光はなんなのか、どこからやってくるのか知りたくて、水面を見上げていた。
あの白く輝くものはなんだろう。気泡似た丸いかたち。あれを水を隔ててではなく、直に見てみたい。この短い手を伸ばせば、あの強烈な白が手に入るだろうか。
海が暗くなった時に垣間見える静かなひかりとも違う、あれ。しずかなしずかな眠りと産卵の時間には見えないもの。
それに焦がれていた。
どうにかして近づけないものか。いつしか見上げることをやめた。近づけばいいのだ。海を出ればいい。浅瀬へ移動する。足が砂に触れる。水の温度が上がる。肌に不愉快だ。それでもと途方もない夢、途方もない欲望が疼き、後押しする。海を出た。
陸にあがっても、それははるか頭上にあった。そのかわりにはじめて見る色を目にした。
海に戻れなくなった。遠くからみるそれは、海中にいる時と違う色をしていた。青い空と同じ青い色。
夢を見る。帰りたい、帰れなくなった海の底の夢。

1/17/2026, 1:27:12 AM

美しいものが見たいと父は言った。
美しいものってなあに?
尋ねると、父は銀の雨だよと答えた。
銀の雨、雪でも雨でもない銀色の雫、それがお空から降ってくるのはね、どこかで誰かの大切なひとがしあわせになったことを教えてくれるんだよ。

1/15/2026, 3:34:53 PM

この世界は不公平だ。
運のいいやつはやさしい両親兄弟のところに生まれ、愛情に恵まれてしあわせな人生を送ると、そう決まっている。悩み事ができたって、いやなことがあっても、必ず誰かが助けてくれる。
お綺麗な苦しみ、あっさり終わった悲しみを、私も辛いことあったよ、頑張ったんだだよと胸を張って話す。
殺してやりたい。
今すぐわたしの苦しみを突きつけて、ほら、頑張れ、辛くても頑張れるんでしょと焚きつけてやりたい。
そんなことをずっと考えていたからか。目の前に現れた異形は清らかな微笑みを口元に浮かべて、それはそれはやさしくあなたの願いを叶えてあげましょうと言った。
わたしの願い?
そんなの決まってる。わたしより幸福なやつを不幸にして欲しい。泣いたってどうにもならないことを、誰も助けてくれないことを、自分が原因じゃない不幸がどれほど重くて、もがきたくてももがけないことを知って欲しい。
あら、あなた、そんなことでいいの?
いいの。だってこう考えちゃうもん。わかってるよ、わたしだけが不幸じゃない。わたしより苦しいひとはいる。でも、ほんとうにそうなのかなって。みんな不幸で悲しくて苦しいと思うけど、どこか、ほんの一部分はわたしよりしあわせなんじゃない?
だから、この願いを叶えて欲しい。違ってたら、それはそれでいいよ。あってても、それはそれでいいよ。
だから、お願い。
異形は呆れた顔で指を振ると消えた。
目を閉じて、しばらく待ってみる。目を開ける。窓ガラスから見る世界は何もか変わって内容に見えた。
わたしは靴を履いて外に出た。友人に会って泣いていないか確認するために。

Next