そこ

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伝えたいことはなんだろう。
あのひととの思い出を指を折りながら、数えてみる。
夏の記憶。秋の記憶。冬の記憶。初めて会った春の記憶。
ぎこちない会話を繰り返していた頃はなんだか距離を感じていた。問いかけと答えがちぐはぐなような、会話に興味がないのかなと思う時もあった。
でも人気のない水族館の暗い水槽の前で、たまたまあなたと会った時、はじめて似てるのかもしれないと思った。
天井近くから揺らめいて届く照明の光、暗い波のなかを泳ぐ魚を見つめるあなたの横顔。足元の照明が細い足首を白く浮かび上がらせていた。
胸の奥に、透明な水滴が落ちた。
声をかけられなかった。目の前のひとは今自分だけの硬質な世界にいる。他者を寄せつけず、何かを問いかけている。その問いを、わたしは知らない。どれだけ親しくなっても教えてもらえない。
そう確信した。
わたしは結局あのひとに声をかけずに帰った。
親しくなってふたりででかけるようになっても、いっしょに水族館に行ったことはない。あの日見たよと伝えることもない。
ただ四季をなんどいっしょに巡っても、あの日の水槽の前で何も見ていなかったあなたに伝えたいことがあったと、思い出すことがある。
わたしがあの日に伝えたかったことはなんだろう。

2/12/2026, 11:04:38 AM