小説
創作
きっとこれが最期だから。
「ありがとう、ごめんね」
君の泣き顔を見上げながら小さく呟く。
ぽたぽたと落ちてくる雫が冷たい。
嗚呼泣かないで、僕の大好きな君。
手を伸ばし、頬に触れる。
手を重ねられると温かみを感じた。
「好きだよ」
君の幸せを一番に願いたかったはずなのに、僕は君に呪いの言葉を贈る。
僕のことを忘れて欲しい。
僕のことを忘れないで欲しい。
ごちゃ混ぜになった気持ちは涙となって目から溢れ出す。
君の唇が言葉を紡ぐ。
「 」
もう僕には聞こえていなかった。
小説
甘露寺蜜璃
部屋の隅で座り込み、庭を眺める。縁側に沿った作りとなっているこの部屋からは庭に生える草木がよく見えた。
「……あと…六年……」
ボソリと呟いた言葉が重く身体にのしかかる。
私はあと六年しか生きられない。
何もかもが私の事を置いていく気がした。
後悔しているわけじゃない。むしろこんなに力を神様や両親から与えられて感謝している。この力のおかげで助けられた命があるのだから。
それでも私の心の柔い部分が叫ぶ。幼子の様なその叫び声は泣いているようで、駄々を捏ねているようでもあった。
「お父さん……お母さん……」
二人のような夫婦になりたくて、二人のような素敵な親になりたくて。けれどもそれは途端に難しくなってしまった。
「………伊黒さん…」
あと六年の命。想いを告げて受け入れられても、きっと後には重荷になってしまう。そもそも期限付きの命を持つ女など相手にされるはずもない。
「…………っ」
隠の人には下がってもらった。今日は一人にして欲しいと言ったら、心配そうな顔で頭を下げていた。
だから、今は正真正銘一人ぼっちだ。
泣いても、誰にも知られない。
「うぅ……っ……ひっく………う…」
私は久方ぶりに、悲しみと寂しさで泣いた。誰に聞かれるはずでもないのに声を殺し、誰に見られるはずでもないのに顔を隠した。
庭では二匹の蝶が仲睦まじく宙を舞っていた。
逆さま
今ディズニーなう!
小説
迅嵐※R15気味
「眠れないほど激しくして」
「……………………は?」
おれの頭はショート寸前だった。事の発端は嵐山が玉狛を訪ねてきたことだった。いつも通りおれの部屋に来て換装を解く。ここまではいつもの嵐山だった。しかし換装を解いた途端、ベッド座っていたおれにのしかかってきた。
「まってまってまってまって待ってください嵐山さん」
読み逃した。先の一言から何も言わない嵐山がおれの服を捲る。やばい目が据わってる。今から未来を視ても遅くは…いやダメだどの未来でも嵐山の目が据わってる。仕方ない。最終手段は…。
「…やめろ」
その一言に嵐山は、はっと我に返ったようだった。
「…あ……じん……その…ごめ……」
最終手段の強い口調は嵐山に効果覿面。分かってはいたけど、やっぱりこの手段を使ったあとは少し気分が悪い。これを使わないと嵐山を止められないなんて実力派エリートもまだまだだな。馬鹿みたいなことを考えていると、目の前の嵐山の顔色が悪いことに気がつく。
「ごめん、強く言いすぎた。…何があった?」
「……なにも……ない…」
青い顔で顔を伏せる嵐山。馬乗りの状態を打開すべく、おれはゆっくり起き上がると、嵐山も素直に腹の上から降りる。ベッドの上で丸くなる嵐山はいつもの何倍も小さく見えた。
「おまえらしくない…ほら、話して?大丈夫だから」
優しく頭を撫でてやると視線を向けられる。長いまつ毛が目元に影を作っていて、いつもの嵐山とは違う色気がある。なんでこんな状況になってんのにおれの未来視は教えてくれなかったんだ!このぽんこつSE!
「……C級の子が……おまえに可愛いって言われたって……言ってて……」
「へ?……言ったかなそんなこと…」
眉を下げる嵐山。いつも見られる顔じゃないから不謹慎にも目に焼きつける。かわいい。
「……おまえ中々俺に可愛いとか言ってくれないから…その…焦って……」
えぇ、いつも思ってますけど。なんなら今もかわいいって思ってますけども。
「いつも夜は言ってくれてたなって思い出したから…早まった……すまない……」
????
「???かわいい……???」
「なんで疑問形なんだ…」
頭の中に宇宙を展開していると久々に嵐山の笑顔を見た。情けない顔をしている嵐山もいいけれど、やっぱり笑顔の嵐山が一番だな。
余りにもかわいいもんで、おれは嵐山の顎をすくい上げ、その唇に触れるだけのキスの雨を降らせる。
「んむっ……む、ん…ふ……んん!」
最後に唇を食むと、抗議の声が鼻を通り抜ける。
「んは、かーわいー」
今のおれの目はきっと蕩けきっているに違いない。
赤い顔を隠すようにそっぽを向いてしまった嵐山に抱きついてみる。
「かわいい」
「…かわいい?」
身長が同じせいでご縁の無かった上目遣いをされ、おれは目眩がしそうだった。なんだこの生き物は。可愛いの具現化か。しかも視えていなかった。流石だおれのSE。ぽんこつって言って悪かった。
「C級の子より可愛いか?」
「かわいい。誰よりもかわいい」
かわいい質問に心を込めて答える。おれの返答に満足したのか、嵐山が抱きしめ返してきた。不安にさせていた事を深く反省し、明日からは毎日かわいいを伝えようと強く決意する。
後日「毎日は言い過ぎだ!」と顔を真っ赤に染めた嵐山に抗議される未来が視えるがそれもご愛嬌。
小説
迅嵐
冬の寒さが身に染みるようになったある日。おれは徐々に意識を浮き上がらせる。ぼんやりとする頭で窓の外に目を向けると、太陽が顔を出すのはもう少し先のようだった。目が覚めたのならこのまま活動を始めれば良い。その方が良いと頭では分かっている。けれど寝起きが良くないおれがすんなり起きられる訳もなく。ああ寒い。このまま寝ていたい。
身を捩ると何か温かいものに足が当たった。
……?なんだっけ?あったかいな?
身体を近づけてみるとそれは柔らかくて温かいものという事が分かった。
抱き枕?おれそんなの買ったっけ?……あれ?そういえばさっき夢で大きい枕を買ったような。……夢じゃなかったのか。んー、それならいっか!
回らない頭で先程の夢を思い出す。近くによるといい匂いまでする。今の抱き枕って凄い。
ギュッと抱えると抱き心地が良すぎて二度寝コースまっしぐらの予感しかしなかった。
……?なんか動いてる……?気のせいだよな……。
「……じん、起きてるんだろ」
嵐山の声がする……?幻聴…?幻聴でもいい声だな。
「…っ、暑い!」
「んぇ!?」
がばりと布団をめくると抱き枕が、否嵐山が起き上がる。それに驚いて俺の意識も覚醒する。…寒い!!!
「寒い!!!!!」
「寒くない暑い!!!」
朝から騒いで数分後、おれ達は完全に目覚め、ベッドの上二人仲良く正座すると、ここまでの状況を整理することにした。
「…つまりお前は俺を抱き枕と勘違いしていたと」
「…ごめん夢と現実の感覚があやふやだったんだよ…」
「恋人の俺を抱き枕に間違える程疲れていたんだな」
「ゔっ…いや…… その……」
「いいや分かってる。そうだよな、最近会えてなくて寂しかったのは俺だけで、お前は抱き枕の方がいいんだろう?」
「あ゙あ゙あ゙っ!!!!違うっ!!!ごめんっ!!!!おまえの方が百倍いいって!!!!!」
この場に不釣り合いな程爽やかな笑顔で言い放つ嵐山に、おれは涙目になりながら抱きつく他なかった。こうなった嵐山は可愛くもあり少々面倒くさい。…まぁそこが好きなんだけど。
オプションで鼻水も垂らしながらおれはそんな嵐山に必死に頭を擦り付ける。
「…んふ」
「はっ…笑った…」
「……笑ってない」
「笑っただろー!!」
嵐山を押し倒し抱きしめるとベッドの上をゴロゴロ転げ回る。朝からハードだと思ったがこれもまた幸せ。二人で笑い転げていると、部屋に太陽の温かい光が差し込んできた。そしておれ達は賑やかな朝を迎えたのだった。