小説
迅嵐
冬の寒さが身に染みるようになったある日。おれは徐々に意識を浮き上がらせる。ぼんやりとする頭で窓の外に目を向けると、太陽が顔を出すのはもう少し先のようだった。目が覚めたのならこのまま活動を始めれば良い。その方が良いと頭では分かっている。けれど寝起きが良くないおれがすんなり起きられる訳もなく。ああ寒い。このまま寝ていたい。
身を捩ると何か温かいものに足が当たった。
……?なんだっけ?あったかいな?
身体を近づけてみるとそれは柔らかくて温かいものという事が分かった。
抱き枕?おれそんなの買ったっけ?……あれ?そういえばさっき夢で大きい枕を買ったような。……夢じゃなかったのか。んー、それならいっか!
回らない頭で先程の夢を思い出す。近くによるといい匂いまでする。今の抱き枕って凄い。
ギュッと抱えると抱き心地が良すぎて二度寝コースまっしぐらの予感しかしなかった。
……?なんか動いてる……?気のせいだよな……。
「……じん、起きてるんだろ」
嵐山の声がする……?幻聴…?幻聴でもいい声だな。
「…っ、暑い!」
「んぇ!?」
がばりと布団をめくると抱き枕が、否嵐山が起き上がる。それに驚いて俺の意識も覚醒する。…寒い!!!
「寒い!!!!!」
「寒くない暑い!!!」
朝から騒いで数分後、おれ達は完全に目覚め、ベッドの上二人仲良く正座すると、ここまでの状況を整理することにした。
「…つまりお前は俺を抱き枕と勘違いしていたと」
「…ごめん夢と現実の感覚があやふやだったんだよ…」
「恋人の俺を抱き枕に間違える程疲れていたんだな」
「ゔっ…いや…… その……」
「いいや分かってる。そうだよな、最近会えてなくて寂しかったのは俺だけで、お前は抱き枕の方がいいんだろう?」
「あ゙あ゙あ゙っ!!!!違うっ!!!ごめんっ!!!!おまえの方が百倍いいって!!!!!」
この場に不釣り合いな程爽やかな笑顔で言い放つ嵐山に、おれは涙目になりながら抱きつく他なかった。こうなった嵐山は可愛くもあり少々面倒くさい。…まぁそこが好きなんだけど。
オプションで鼻水も垂らしながらおれはそんな嵐山に必死に頭を擦り付ける。
「…んふ」
「はっ…笑った…」
「……笑ってない」
「笑っただろー!!」
嵐山を押し倒し抱きしめるとベッドの上をゴロゴロ転げ回る。朝からハードだと思ったがこれもまた幸せ。二人で笑い転げていると、部屋に太陽の温かい光が差し込んできた。そしておれ達は賑やかな朝を迎えたのだった。
12/4/2024, 12:43:27 PM