小説
甘露寺蜜璃
部屋の隅で座り込み、庭を眺める。縁側に沿った作りとなっているこの部屋からは庭に生える草木がよく見えた。
「……あと…六年……」
ボソリと呟いた言葉が重く身体にのしかかる。
私はあと六年しか生きられない。
何もかもが私の事を置いていく気がした。
後悔しているわけじゃない。むしろこんなに力を神様や両親から与えられて感謝している。この力のおかげで助けられた命があるのだから。
それでも私の心の柔い部分が叫ぶ。幼子の様なその叫び声は泣いているようで、駄々を捏ねているようでもあった。
「お父さん……お母さん……」
二人のような夫婦になりたくて、二人のような素敵な親になりたくて。けれどもそれは途端に難しくなってしまった。
「………伊黒さん…」
あと六年の命。想いを告げて受け入れられても、きっと後には重荷になってしまう。そもそも期限付きの命を持つ女など相手にされるはずもない。
「…………っ」
隠の人には下がってもらった。今日は一人にして欲しいと言ったら、心配そうな顔で頭を下げていた。
だから、今は正真正銘一人ぼっちだ。
泣いても、誰にも知られない。
「うぅ……っ……ひっく………う…」
私は久方ぶりに、悲しみと寂しさで泣いた。誰に聞かれるはずでもないのに声を殺し、誰に見られるはずでもないのに顔を隠した。
庭では二匹の蝶が仲睦まじく宙を舞っていた。
12/8/2024, 9:56:08 AM