おばみつ※物語風
むかし、ある時代に一人の少女がおりました。
その少女は桜色と若草色の美しい髪を持ち、常人よりも八倍力持ちでありました。
優しく美しい少女は、周りからとても慕われておりました。
十七になったある日、少女はお見合いをすることになりました。
するとお相手から心無い言葉を言われ、少女は深く悲しみ心を閉ざしてしまいました。
美しい髪を黒く染め、大好きな食べることを辞めてしまいました。
「私のことを好きになってくれる人はいないの?」
彼女は自らの力を生かすため、こんな自分でも愛してくれる素敵な殿方を探すため、鬼を狩る鬼殺隊という組織に入りました。
そこで少女は出会いました。
出会った青年は白蛇を連れ、蜂蜜色と瑠璃色の美しい瞳を持っていました。
二人は直ぐに仲良くなり、愛し合うようになりました。
しかし、青年には秘密がありました。
その秘密があるせいで青年は少女に想いを伝えず、また少女も中々言えずにありました。
そんな中、鬼との戦いは続いていきました。
ある月の美しい夜、二人は最後の戦いへと向かいました。
次々に放たれる攻撃を交わしきれなかった少女は深い傷を負い、それを見た青年は少女を抱え建物の裏に駆け込みます。
そして少女を戦いから遠ざけると自らは戦場へと戻ってゆきました。
「いかないで!」
少女の悲痛な叫びは届かず、青年の姿は小さくなるばかりでした。
しかし少女は一人生き残ることが嫌でした。仲間と共に最期まで戦いたかったのです。
少女は治療を終えると、無惨な戦場へと舞い戻ります。
激戦を乗り越え、遂に鬼殺隊は鬼の頭を討ち取り、世界は平和を取り戻しました。
陽の光を浴びながら、少女と青年は寄り添い合い最期の時を待ちます。
二人には生き残る力がもう残っていませんでした。
「生まれ変わったら私のことお嫁さんにしてくれる?」
少女の問いに青年は頷きます。
「君が俺でいいと言ってくれるなら」
二人は静かに天に昇ってゆきました。
鬼が居なくなり、平和な世界が普通となったある日。
ある男女が、美しいチャペルで結婚式を挙げていました。
それはあの少女と青年でした。生まれ変わった二人は、再び出会い、愛し合い、今日夫婦となるのです。
二人はとても幸せそうに笑いました。
少女は言います。
「私を好きになってくれてありがとう」
少女の瞳から一粒の涙が零れ落ちました。
そしていつまでもいつまでも、夫婦となった二人は仲良く幸せに暮らしました。
この先、二人が離れることはないのでしょうね。
めでたしめでたし
小説
おばみつ※転生if
「きゃあっ!!」
突然の事に、私は悲鳴をあげてしまった。
「甘露寺!?」
リビングから伊黒さんが走ってくる。相当焦っていたようで、スリッパが片方脱げてしまっている。
そこで彼が見た光景とは。
座り込む私。そして床に散らばる皿の破片とまだ温かい料理。
「……ごめんなさい」
私は涙を浮かべ、落としてしまった料理をただ呆然と眺めることしか出来なかった。
「泣かないでくれ、大丈夫だよ甘露寺」
彼は私の頭を一撫ですると、無惨に散らばった料理だった残骸を片付け始める。慌てて私も片付けに加わろうと優しく制されてしまった。
「ごめんなさい、私のせいなのに」
「いいんだ、それより怪我は?君の体の方が心配だ」
こんな時まで私なんかの事を気にしなくてもいいのに。だって私は普通の人より強いんだから。
「こら、そんな事言わない」
いつの間にか床は綺麗さっぱり片付いていた。手を洗いながら彼は私に言葉を返す。
気づかないうちに心の声が漏れてたみたい。
「君は俺にとって、か弱い普通の女の子だよ」
ストレートに言われ、私の頬は熱を持つ。伊黒さんは、私の欲しい言葉をすぐにくれるから、いつもドキドキが止まらないの。
「…うん、ありがとう。伊黒さん」
「そんな君に提案があるんだ。極秘ミッションだよ」
「極秘ミッション…!」
素敵な響きの言葉に私の心は先程と打って変わって舞い上がる。ここで失態を挽回しなければ!
「伊黒さん!私どうすればいいの?」
「これ、一緒に買いに行こう」
彼がスマホを差し出してくる。
「……!これは…!!」
買い物から帰り、机の上にはポテトとハンバーガー。
極秘ミッション、それは某ハンバーガーショップで期間限定のセットを買うことだった。
「それじゃあ…いただきます!」
「いただきます」
二人でまだ温かいハンバーガーにかぶりつく。するとチーズとハンバーグの絶妙な旨みが口いっぱいに広がった。次いでポテトを放り込むとしょっぱすぎない塩加減がお芋の味わいを引き立てていた。
「美味しい!とっても美味しいわ伊黒さん!」
「あぁ、美味しいな」
手作りの料理も良いけれど、たまにはジャンクフードも良いわね。
「…確かに極秘ミッションね…。普通ミッションだったら美味しすぎて毎日食べちゃうわ…!」
「ははは、そう、だから極秘だ」
私の変な解釈に、彼は笑って付き合ってくれる。小さなことだけれど、それがとても嬉しかった。机の上のポテトが残り数本になった頃、私は新たなミッションを提案する。
「ねぇ伊黒さん、明日は新しいお皿を買いに行こう?」
「いいよ、楽しみだ」
小説
迅嵐※『たくさんの思い出』の続き
家の鍵は空いていた。ドアノブを回し中に入ると、いつもはきちんと揃えられている嵐山の靴があっちこっちに放り出されていた。視ると、嵐山は寝室に居るようだった。しかし寝室のドアを開けようとするが、何かに引っかかっているらしく、ビクともしない。
「…嵐山」
ドア越しに声をかけるが返答はなかった。きっと、ドアを背に座り込んでいるのだろう。
「ねぇ、嵐山……開けてよ」
ドアに手を添え、おれは情けない声で懇願する。
「……嫌だ」
「謝らせて」
「…………何に対してだ」
「嵐山を信じきれてなかったこと」
はっ、と息を飲む音が聞こえた。しばらくすると小さくドアが開く。ゆっくりと中に入ると、部屋の隅に座り込んでいる嵐山が目に入る。俯いた顔は暗く、いつもの明るさは鳴りを潜めていた。
「…嵐山」
おれはしゃがんで、座り込んでいる嵐山と目線を合わせる。
「…傷つけた。ごめん」
引き寄せるように抱きしめると、肩口から弱々しい声が聞こえてくる。
「……約束、覚えてたんだな」
「…思い出したよ。今まで喧嘩することなんてなかったからすっかり忘れてた」
「……俺は、別に女とか男とか関係なく迅が好きだ。…………でもお前にとって俺は…性別で人を好きになるような人間に見えていたということだろう?」
「違う、違うんだ嵐山」
震える声で続ける嵐山は、自らの放った言葉にさえ傷ついているようだった。
「迅…俺は…お前の何だ?」
問われ、おれは目を見開く。そして、嵐山を抱きしめる腕に少しだけ力を込めた。
「……お前は…おれの未来だ」
え、と小さく掠れた声が、おれの耳に届く。
「未来で、希望で、宝物」
「……」
「だから、取られたくなくて焦った」
「…迅…」
「お願い、遠くに行かないで。……我儘かな…」
許してもらえるだろうか。おれは少し怖くなって、嵐山の首元に顔を埋める。
「………全く、しょうがない奴だな」
嵐山の温かい手がおれの背に回る。
「この我儘勘違い予知予知歩きマンめ」
「……ごめんって」
「俺が可愛い女の子に靡く?…バカ。お前は俺の何を見てきたんだ」
「……うっ…」
「…でも、約束覚えててくれてありがとう」
どちらともなく身体を離す。よく見ると嵐山の頬には涙の跡があった。ここに来てからずっと泣いていたのだろう。おれは嵐山の頬に手を伸ばす。涙の跡を親指でなぞると、嵐山は少しだけ気恥ずかしそうに笑った。
「…泣かせちゃったな。ごめん」
「いや、俺こそ悪かった。迅の気持ちを考えずに行動してしまった」
お互い謝ったところで、ふっと笑みを零す。始めての喧嘩は、硬い床の上で収束したのだった。
「…ところで迅、俺ってお前の宝物だったんだな」
「なっ…そこ蒸し返さなくていいだろ!」
キャンドル
流石に何も出てこんてキャンドルは爆笑
蝋燭ならギリ出た
小説
迅嵐
「…もういい」
小さく、泣きそうな声でそう言った嵐山は、おれに背を向けて隊室を出て行ってしまった。
「……やっちまった…」
おれは壁に背を預け、ズルズルと座り込む。
事の発端は、数十分前に遡る。
「…勉強会?」
耳に入ってきた言葉をオウムのように返す。
「あぁ、同じ講義を取ってるメンバーで一緒に勉強しようかと思って」
嵐山の未来を視ると、そこに同性はおらず、可愛い女の子達しかいなかった。勉強会と言われなければ、合コンに見えなくもない。男嵐山しかいないけど。
「えぇ…女の子しかいないよ」
「…それでも誘ってくれたし…」
曖昧な返事を返す嵐山に少し苛立つ。恋人がいるのに、可愛い女の子達の中に飛び込むというのか。
「行くの?」
「そりゃあ…まぁ…」
「ふぅん、いいんじゃない?」
顔に出さないように務めて冷静に返した。つもりだった。けれど嵐山にはお見通しだったらしい。
「拗ねるなよ、勉強するだけだ」
「勉強する何も、可愛い女の子に囲まれてたらそりゃ嬉しいよね」
「…何を言ってるんだ迅」
「その女の子たち、勉強目的なんかじゃないよ。嵐山だけ見てる」
「そんな事ない」
「そんな事あるよ。逆になんでないって言い切れるの」
「…迅、話を聞いてくれ」
「何を聞くって言うのさ。嵐山も可愛い女の子の方がいいって話?」
「迅!!!」
大きな声で呼ばれ、おれは肩を震わせる。
いつ間にか下を向いていた視線を上に戻し、息を飲む。
眉間に皺を寄せ、眉尻を下げ、潤んだエメラルド色の瞳は今にも零れ落ちそうだった。
「…もういい」
ここで冒頭に戻る。
今回は全面的におれが悪かった。なんて謝ろう。そもそも謝って許してもらえる事なのか?…別れることになるのか?未来が多すぎて視えづらい。
嵐山は女の子の方がいいなんて、思わないし言わない。それはずっと知っていたことだったのに。
多分、おれは怖いんだ。同性で、仲間で、親友なのに。好きになって、付き合えて、一緒にいてくれる嵐山が居なくなることが怖い。
頭の中は未来と今と思い出が重なり合い、ぐちゃぐちゃになっていた。
『約束だ』
ふと、たくさんの思い出の中から、嵐山の声が聞こえた気がした。
「約束…?なんだっけ………あっ」
記憶を手繰り寄せると、嵐山と付き合いだした頃に小さな約束した事を思い出した。
『もしも俺達が喧嘩してしまったら、仲直りは家に帰ってからしよう。基地に居る時は、きっと仕事モードが抜けなくてお互い意地を張ってしまう。だから家に帰ってから。家にいる時は、一旦外に出てから仲直りだ』
そう言っておれと嵐山は指切りげんまんをした。命令でも契約でもない、ただの口約束されど約束。
おれはこの後任務が入らないことを視ると、嵐山が出ていったドアから部屋を飛び出した。