【心の灯火】
灯を宿すために漂う狐は
今日もどこかで
がらんどうな器を 探している
あの器は未熟で
あの器は駄目だ
あの器はもう別の狐が灯している
夜の繁華街を通りすぎる
ガラの悪い若者たちの中に一つ
良い器が混ざっていた
狐は器に近づき
手の平に火の玉を作ってみせ
それを器に投げ入れた
からっぽの胸に
照らす炎は ゆらゆらと燃える
胸内に何かを抱えた者にのみ
心に火がともるのだ
【開けないLINE】
スマホのホームをみた
LINEの通知が来ていた
二件
そのまま来たメッセージを 読もうにも
一件は 僕が送った内容についての回答
もう一件は スタンプ と思われる
通知だけでは全文を読めない
どうしよう
開きたくない でも開かないと
でも 開きたくない
あの人に 想いを告げた
本当は直接 言いたかったけど
会えた時に 結局言えなかったから
続きはLINEでって 言ってしまった
情けない
心臓の鼓動が早くなる
深呼吸して 落ち着いたら
思い切って 開こう
【香水】
貴方の残り香を追いかけて
何を言おうとしたか
頭が真っ白になる
甘くて 艶やかで
それでいて少し苦い
【言葉はいらない、ただ…】
隣にいるだけで
俺たちは無敵なんだ
なんて
少年漫画じゃあるまいし
大体何と戦うんだよって
こんな退屈だけど
適度に忙しい平和な日常で
青臭いなんて思うけど
友情 勝利 努力
漫画みたいなこと起きないかなって
思っちゃったりはする 正直
最近の漫画は全然そうじゃないけど
むしろ胸糞展開 グロテスク上等みたいな
漫画とか流行ってるけども
相棒っていう存在にも憧れる
背中合わせに こう 何かに
立ち向かう的な
そんなことを考えながら
窓際の席で今日も一人
弁当を食う
机の端には読みかけのライトノベル
その前に
話相手が欲しい
【突然の君の訪問。】
終電まで仕事をして
片手には半額の弁当とビール缶
何とか階段をあがり
アパートの扉前まで辿り着く
さあ 入ろうとしたところに
なー という声がした
するり と俺の足に擦り寄ってくる
久々のダチ
暫く見かけないと思ったら
生きていたんだな
何かなかったかとビニール袋を漁り
半額の刺身が出てきたので
半分 そいつにくれた
ダチは満足そうに
喉を鳴らしていた