絶対に
絶対に
絶対に
散歩に行く
と言わんばかりに
玄関前で自身の尻尾を
追いかけながら
くるくると回る白い綿毛
ポメラニアン
だから
今日は大雨だから
散歩なんてできないんだって
絶対に分かってないね
この子は
【嵐が来ようとも】
熱気と活気で満たされている
屋台を歩く
カキ氷のシロップで
君の舌は緑色で
自分は青色になる
焼きそばもたこ焼きも食べたくて
二人で分け合いながら頬張る
わたあめでベタベタになって
りんご飴の赤みにうっとりする
水に浮かぶスーパーボール
当たるかどうかも怪しい射的
光るおもちゃ
子供たちが真剣に選んでいるのを見て
かつての自分たちだと
お互いに微笑ましくなる
花火を見ようと
喧騒から離れた
神社の鳥居で座り
有名なあの歌を思い出す
勿論 原曲の方
今 まさに
あの歌詞と同じ心境だ
線香花火とマッチは
持っていないけれど
肝心なあの言葉が出ないまま
空には大きな華が咲いて
消えていった
【お祭り】
「助けてください」
「何で?というかどういう状況」
俺はいまいち今しがた起きたことが理解できない。
つい数秒前、俺は神社の賽銭前で小銭を入れ、手を合わせ祈りを済ませた後だ。なんか面白いことがありますように、的なことをお願いしたら急に境内が光りだし、気がついたら目の前に和装の若い男が現れたのだ。
「私は神です」
「頭大丈夫か」
「貴方が呼んだんでしょう。面白いことがありますようにって」
「いや確かにお願いしたけども、何あんた俺の願いの内容が分かるんだよ。怖」
「私はここの神ですから」
「仮にあんたが神様だとしても全然面白くはないから、何なのこの状況」
「それはこちらの台詞ですよ、おとなしく学業成就とか恋愛成就とか祈っておけば良いものの」
「え?これ俺のせいなの」
「貴方以外誰もいないでしょう、この神社に人間が」
「……ちなみに学業成就を祈ったら何してくれるの」
「私が全力でカンニングします」
「シンプルに不正かよ」
「大丈夫ですよ。私は願いを唱えた人間以外見えませんから」
「そういう問題じゃねーわ!じゃあ恋愛成就は」
「私が恋人になります」
「力技過ぎるだろ」
「全く、面白いことって何ですか無茶降りが過ぎますよ」
「な、なんかわりーな…(何で俺が謝っているんだよ)」
「とにかく、貴方の願いが叶うまでは責任とってもらいますからね」
ただ小旅行で見つけた神社でお祈りをしただけなのに、どうしてこうなった。
ちなみに俺の訪れた神社の街が、リアルに神様や妖怪が「いる」ということを知るのはずっと先のことである。
【神様が舞い降りてきて、こう言った】
温室に置かれている
金色の鳥籠
鳥籠の中に
白い鳥がいた
籠の中に吊るしてある
木のブランコに
静かに留まっている
羽ばたくことは知っていて
飛ぶことを知らない
白い鳥は
哀れで美しい
【鳥かご】
私はとある普通の高校に通う学生だ。名前はよくある苗字のよくある名前。ただ名前については今時なのかもしれない。ちょっと綺麗な漢字で書いて中性的な読み方をする、そんな名前。ちなみに特別可愛い訳でも美人でもない、至って普通の見た目だ。その辺り期待していた人がいたら謝る。え?期待はしてない?知ってたよ。
いけないいけない、油断していたら無意識に自語りをしてしまった、これだから私は。私のことはどうでもいいんだ、私のことは。
私の席の横で繰り広げられていることが気になって仕方がない。
現在は授業中。世界史の時間だ。
中世ヨーロッパの情勢について先生が教科書を片手に延々と淡々と説明しながら黒板へチョークを走らせている。国名や人物名や歴史の単語が次々と先生の口からチョークの文字から飛び出してくる。知らぬ存ぜぬ内容なのか、教室は静かであるものの、誰かのあくびが時折聞こえてくる。
大半の生徒には苦痛の範囲ではあろう。ちなみに私は世界史は好きな方だ。しかも今習っているところなんかは特に好きな範囲だ。国名や人物名が聞こえてくる度に笑みが溢れそうになる。最も本気で笑うものなら、根暗女の烙印を瞬時に押されてしまうのは目に見えているので、内心の範囲で何とか堪える。こういう時ばかりはオタクで良かったなと心から思う。授業が実質推し活になるとか学生としてもオタクとしても役得でしかない。
…と、思っていた側で横の席のイケメン二人(私が心の中で勝手にそう思っている)が授業中にこっそり身を寄せ合ってこそこそ何かをしているのだ。横目で一瞬だけ、ちらりと見てみると、どうやら週刊誌を教科書に隠しながらぴたりとくっついて読んでいるらしい。二人が仲が良いのはクラス皆が知っているが、それにしても距離感は近いと思う。気軽に肩を組んだり、くすぐり合ったり…陽キャって皆こんな感じなのか。小学校から図書室が友達の私には分かりませんが、とりあえず目の保養にはなりますありがとうございますって感じだ。
しかしこうなると最大の問題が発生してくる。
推しの授業を聞きながら推しの二人をどう観察するのか、それが問題だ。
目も耳もどころか、五感が忙しくなる授業になりそうだ。
【友情】