私はとある普通の高校に通う学生だ。名前はよくある苗字のよくある名前。ただ名前については今時なのかもしれない。ちょっと綺麗な漢字で書いて中性的な読み方をする、そんな名前。ちなみに特別可愛い訳でも美人でもない、至って普通の見た目だ。その辺り期待していた人がいたら謝る。え?期待はしてない?知ってたよ。
いけないいけない、油断していたら無意識に自語りをしてしまった、これだから私は。私のことはどうでもいいんだ、私のことは。
私の席の横で繰り広げられていることが気になって仕方がない。
現在は授業中。世界史の時間だ。
中世ヨーロッパの情勢について先生が教科書を片手に延々と淡々と説明しながら黒板へチョークを走らせている。国名や人物名や歴史の単語が次々と先生の口からチョークの文字から飛び出してくる。知らぬ存ぜぬ内容なのか、教室は静かであるものの、誰かのあくびが時折聞こえてくる。
大半の生徒には苦痛の範囲ではあろう。ちなみに私は世界史は好きな方だ。しかも今習っているところなんかは特に好きな範囲だ。国名や人物名が聞こえてくる度に笑みが溢れそうになる。最も本気で笑うものなら、根暗女の烙印を瞬時に押されてしまうのは目に見えているので、内心の範囲で何とか堪える。こういう時ばかりはオタクで良かったなと心から思う。授業が実質推し活になるとか学生としてもオタクとしても役得でしかない。
…と、思っていた側で横の席のイケメン二人(私が心の中で勝手にそう思っている)が授業中にこっそり身を寄せ合ってこそこそ何かをしているのだ。横目で一瞬だけ、ちらりと見てみると、どうやら週刊誌を教科書に隠しながらぴたりとくっついて読んでいるらしい。二人が仲が良いのはクラス皆が知っているが、それにしても距離感は近いと思う。気軽に肩を組んだり、くすぐり合ったり…陽キャって皆こんな感じなのか。小学校から図書室が友達の私には分かりませんが、とりあえず目の保養にはなりますありがとうございますって感じだ。
しかしこうなると最大の問題が発生してくる。
推しの授業を聞きながら推しの二人をどう観察するのか、それが問題だ。
目も耳もどころか、五感が忙しくなる授業になりそうだ。
【友情】
7/24/2024, 2:22:35 PM