しののめ

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6/21/2024, 8:30:05 AM


楽しい
癒される
救われる だなんて

素直に言えたら良かったのに

【あなたがいたから】





 「うわマジか」

 時間は夜。
 仕事を終え、オフィスのエントランスを出ようとしたところで雨が降っていることに気づいた。ビル内にいても分かる程の降り具合とみた。ザー、ザー、ザー、とシャワーを浴びているような、滝に打たれているような、そんな音。外に出なくたって分かる。すごい雨量だ。

 おいおいおい。
 今日降るとか聞いてないんですけど。
 傘、持ってきてないんだが。

 「お疲れぃ後輩よ。今日も残業だったのか」
 「あ、先輩」

 後ろからぽん、と肩に手を置かれたので振り返ると同じ部署の先輩が隣にいた。先輩とは何年も同じ部署で付き合いも長いため僕も気心が知れていた。雨やば、と先輩も額に手を当てながらビルから見える雨を眺める。

 「ここは熱帯地域ですか?ってくらいの雨の量じゃん」
 「雨の量すごいですよね…僕傘持ってきてないんですよ」
 「マジか。折り畳み傘で良ければ入ってくか?」
 「いいんですか」
 「まぁでもこの量だと意味ないかもしれんけど」
 「頭が守れたらそれで」
 「りょーかい。じゃあ今から取り出すわ」

 先輩は頷き鞄から折り畳み傘を取り出した。折り畳み傘にしてはやや長めで重量がありそうな、黒い傘だ。

 「しかし最近の雨さ、おかしいよな。しとしと〜とかそんな風情のある可愛い感じじゃねーし」
 「そうですね」
 「地球もいよいよおかしいんじゃね?温暖化の影響でーとかよく聞くけど、絶対他に理由ありそう」
 「出た先輩の癖」
 「癖とは何だよ癖とは」

 相合傘とかいつぶりだろうなぁ、と止め紐を外しながら先輩は呟く。

 「高校以来かぁ?誰かと傘を共有するなんて」
 「めっちゃ青春じゃないですか。気になる女子とかとですか」
 「いや地元のばあちゃん」
 「良い人エピソードだった」
 「気になるっちゃ気になるだろ。ザーザーの雨の中を手押し車を引いて道歩こうとしたんだから」
 「別の意味で気になりますねそれ!」

 お婆様、元気あるとかの次元じゃなかった。

 まぁ、でもさ、と傘の柄を伸ばしてながら先輩は僕をみる。

 「傘一つで良い人になれるなら、持ち歩くのも甲斐があるってもんっしょ」
 「ですね。今それを僕に言わなければもっと良かったです」
 「水をさすなよ入れてやんねーぞ」
 「ごめんなさい」
 「傘だけに」
 「僕の謝罪、前言撤回していいですか」

 それから僕たちは二人並んで会社を出た。

 やはりというか、案の定というか、傘なんて意味がなかったくらいにずぶ濡れになった。もう先輩と笑うしかなかった。【相合傘】

6/18/2024, 12:57:11 PM

 非常に私事なのだがここに書いておく。

 私だけなのかは分からないが、夜、布団に潜り、目を閉じ、うとうととし始めてた時、時々、どこからか落ちていくような感覚になる。
 
 そうだな、例えるなら某夢の国のテーマパークにあるアトラクション…急上昇し、天辺に到達した直後に落下する、あのアトラクションに乗ったような感覚、というべきだろうか。落下し続けている感覚がずっと続くような、そんな感覚だ。

 何か身体の不調かと思い、一度調べてみたことがある。調べたところによると、この「落ちている感覚」というやつはジャーキング現象、と呼ばれるものらしく、横になり、全身がリラックスした状況を脳が「高い所から落ちている」という風に勘違いするらしい。

 ひとまず不調な訳ではない、ということは分かっただけ良しとしたい。

 今夜も落ちていくのだろうか。

 気持ちは落ち着かない。      【落下】

6/17/2024, 10:49:07 AM

僕には「それ」は
あるのだろうか

子供の頃に描いていた「それ」と
今の「それ」は きっと違うだろう

子供の頃の「それ」は
眩しくて 絶対良いものだと信じていた
今はどうだろうか
今の「それ」は 暗くて
怖くて 考えたくもない
だから ここへ来た


俺には「それ」は
ないのだろう

思えばガキの頃から 碌でもない人生だった
傷つけられ 傷つけられまいとして
自らも傷つける日々
今だって 屑みたいなことをして
塵みたいな金で 食い繋いでいる
今日も仕事で ここへ来た


僕はこれで「それ」が終わる

俺は今日も「それ」がない


これはとある二人が出会い
繋がりを経る「それ」の
前の噺


【未来】

6/17/2024, 3:51:52 AM

 ある町の話。
 人と人ならざるモノが住まう町の話。

 人ならざるモノとはすなわち「神」や「妖」と呼ばれたモノだった。
 両者とも同じ人間と異なる存在であるものの、人に信じられ祀られることで人に尽くすモノを「神」と呼び、人に害をなすモノを「妖」と呼ぶような違いがある。
 町では各所で神や妖が頻繁に見られたり、数々の伝承や言い伝えが存在していたりと有史以来、神妖の存在は町と町の人々にとっては無視することの出来ないものと今日までなっている。


 逢魔時。
 空が揺れる。

 空が異様に赤くなるのは何も日が沈んだからだけではなかった。町に潜む妖が跋扈する刻だ。大抵の妖は町に住まう神々によって人間へ害が及ばないようになっているが、時折、神の目を掻い潜って害をなす妖がいる。所謂「神隠し」と呼ばれる失踪事件がこの町で起きたとしたら、妖の仕業なのである。

 赤い空の向こうで何者かが嗤う。

 去年のことである。

【1年前】【あいまいな空】

6/14/2024, 9:11:37 AM


ふん
移り気 浮気 か
随分と勝手な印象だ
土の性質によって
花の色が変わるというのに
人間というやつは
一方的な思い込みで
言の葉を花に与える

昔 ある先生がそう嘆いていたのを
ビニール傘越しに咲いている
こいつを見て思い出した

こいつは知らぬ存ぜぬで
ピンク 青 白と
好きに咲いている

そんなこいつが
自分が好きだ

【あじさい】

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