世の中というやつは存外
上手くできている
肉が好きで
ピーマンが嫌い
ピーマンの肉詰めは
食べられる
夜更かしは好きで
朝起きるのは嫌い
必ず昨日は終わり
必ず明日が始まる
保健室の先生は好きで
生徒指導の先生は嫌い
労りと観察という
いわば生徒にとっては飴と鞭
あの子は好きで
あいつは嫌い
密かに想いを寄せていて
あいつもあの子に想いを寄せている
全く 存外 世の中
上手くできていない
【好き嫌い】
水平線の向こうを見る。
ビルとビルの間から見える陽が茜色に染まっている。
まるで燃えているかのようだ。
高低差のある道をひたすらに進む。
久々に仕事を定時で終えた。
これから買い物をして適当な献立を考えて、それから余暇は何をしようかと考えながらの帰路が一番好きかもしれない。
今日は夕日が見える間に帰ることができた。
私は一日の中では夕方が一番好きだ。
日が沈み、グラデーションの空が徐々に、紺色から夜空になるこの僅かな時間の空は、まるでキャンバスに広げられた鮮やかな絵の具の色が少しずつ滲み、溶けていくようで美しい。
今歩いている道には私の他には誰もいない。
私の住む街は坂が急な場所が多い。
歩いたり、自転車を漕いでいる時なんかは、なかなかに大変な地形だが、道の高低差のお陰でこうして天気が良いと、綺麗な夕日に出会えるのだ。
私の街で
好きな空をながめながら
好きな時間帯に
好きなことを考える
そんな至高の瞬間を噛み締めながら、私は茜色に向かって歩みを進めたのだった。
【街】
んー…そうだな
しなくないことなら沢山浮かぶんだけど
早起き
満員電車に乗る
勉強
部活の走り込み
嫌いな食べ物を食べる
仕事
電話対応
残業
………
こう並べると
一日の大半はしたくないことで
成り立ってるなぁ
世の中ってこういう
一人ひとりのしたくないことで
成り立っているのなら
したいことで生活してるひとって
なんなんだろうな
【やりたいこと】
最後に他人と出会ったのは果たして何年前だったか。
モニターの操作や音声指示で、日常の全てが自動で解決する自宅。
一歩外を出ても、無人の公共機関や案内ロボが最短ルートや快適ルートをナビゲートし、人間を行きたい場所まで導いてくれる。
一昔前はあんなに便利だ便利だ、と驚きと嬉しさがあったはずなのに、今やもうそれらはすっかり自分たち人間の生活に溶け込み、今やもう当たり前という地位にまで到達した。
こんなにも快適になったというのに、心の渇きがあるのはなぜなのか。
「なんで自分は寂しいんだろうね」
『そうですね。感傷的なご様子なので楽しい気分になれる書籍や映画を検索してみました。興味を持たれたものはありましたか?何日も続くようでしたらAIドクターやケアロボットドクターへの受診をお勧めいたします』
無機質な君に問うてみた。間違ってはいないのだけど、正しくはない。
【世界の終わりに君と】
やってしまった
電車を逃してしまった
無人駅で項垂れる 僕
僕の住む町は 田舎
最寄りの駅に電車は
2時間に1度しか来ない
その貴重な電車が
たった さっき
走り去った 走り去ってしまった
時刻表 そういえば
変わったんだった と
ああ あと2時間
駅の待合室で どうしようか
【最悪】