ひと

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9/22/2025, 8:42:27 AM

虹の架け橋


虹の架け橋はどこにあるのだろうか。

先日可愛がっていたオカメインコを病気で亡くした。
大人になってもあれほどまでに、声をあげて泣くことはきっと後にも先にもないだろう。
頭ではもう居ないとわかっていても、どうしてもふとした瞬間に、視界の端々に、音の隙間に、存在を感じてしまう。
ペットは無くなったら虹の橋を渡ると聞く。うちの子はもう渡ったのだろうか。
一説には、虹の橋で飼い主を待つとも言われている。
うちの子は待ってくれているだろうか。だとしたら、私はその虹の橋を見つける事が出来るのだろうか。
この先何十年、気の遠くなる時間を待たせてしまう。
待ってくれているだろうか。
もう一度でいいから、その小さな身体を抱きしめて、たくさん撫でてやりたい。
頑張ったね、って。

虹の架け橋はどこにあるのだろうか。私はまだ探し始めたばかりだ。

7/16/2025, 3:03:01 PM

真昼の夢


少しうたた寝を…

目を閉じて夢の中に浸かると

「おい!!」

いつも耳元で同じ声がして目が覚める。


少し冷や汗をかく昼下がり。

あの声は一体誰の声なのか。

3/28/2025, 3:39:08 PM

小さな幸せ



久しぶりに袖を通したジャケットのポケットから、500円玉が出てきた。ラッキーなんて思いながら、いつも降りる駅よりも一つ早く降りて、そこで先程の500円を使いケーキを買った。もちろん少しプラスしたけど、500円のおかげでそこまで痛手じゃない。
家に帰ってケーキを差し出した。妻は少し驚いた顔をして「今日なんかの記念日だっけ?」なんてちょっと焦っている。食卓につくと、僕の好物が並んでいた。今度は僕が「今日なんかの記念日?」と聞く羽目になった。
反抗期真っ只中の娘が2階から降りてきて、3人で食事をした後、僕が買ってきたケーキを一緒に食べた。
しばらく見てなかった娘の笑顔が見れた。

たまたまが重なって小さな幸せとなる。
小さな幸せが重なって大きな幸せとなる。
何気ないものに宿る幸せは、小さくとも偉大なのだ。

2/22/2025, 7:14:54 PM

君と見た虹



東の空に薄らと浮かぶ七色のアーチを見つけた。


「あ!ママ!見てあれ!虹だよ!虹が出てる!」
「んー?あ、ほんとだ!」
「虹の下には何があるの?」
「何だろうね〜…お宝かもよ?」
「えっ!ホント!?僕今から虹の下まで行って探してくる!」

遠い日の思い出が蘇って来た。
虹を見るとキラキラと目を輝かせ、必ず私を呼ぶのだ。
ママ見てって。
私はそんな息子を微笑ましく思いながら、いつまでも一緒に眺めていた。

虹が大好きな息子は、虹の出現場所へ行こうと作戦を立てたり、登って虹の上を歩くのだとよく話していた。
そんな事も思い出した。
私にとっては昨日のことのように鮮明で、それでいて涙が出そうなほど儚く懐かしい思い出だ。


「あ。━━、見て虹が出てるよ。」
「え?…あ、それより──」

窓の外に浮かぶ虹を見て、懐かしさのあまり伝えてみたけど、息子はチラリと目線を動かしただけだった。

私よりも随分と大きくなった背。
あの頃よりも空に近くなったのに、空を見上げる事はきっと減っただろう。
虹を見て走り出す事も無ければ、キラキラと輝く目を向けてくれる事もない。
虹の下へ辿り着くことは出来ない、虹の上を歩く事は出来ない、虹の下に宝物なんてない、息子はもうそれを知っている。
でも、それでいい。それでいいんだ。
大人になるってそういう事なのだから。
けれど、あの日々に取り残されている私が居るのも事実。少しだけギュッと胸が切なくなった。


いつかきっと、息子も今の私と同じことを考える日が来るだろう。
その時に、あぁ、俺も母さんと見たっけな。なんて…少しでも思い出してくれたりするのかな。
そうしたら懐かしく思ってくれるだろうか。

…そうだったらいいな。

そうしたら自分の宝物をしっかり抱きしめてあげるんだよ。

いつか、それがまた虹の思い出となって、次へ繋がれてゆくから。きっと。

2/11/2025, 4:33:23 PM

ココロ


「ねぇ!ココロって何処にあると思う?」
突然の問いかけに、僕は思わず家へと向かう足を止めた。
問いかけてきたのは、いつも隣を歩いている幼馴染の森岡海里だ。
親同士が学生の頃からの友達らしく、家も近所という事もあって、幼い頃からずっと隣にいる存在だ。
「ちょっとキンタ聞いてる?」
勿論僕の名前はキンタは本名ではない。海里が金本颯太という僕のスーパークールな名前を改造して、作りやがった大変不名誉なあだ名だ。
「聞いてるよ…」
「じゃあ答えてよ。」
えっと…ココロは何処か、だったな。
…そんなの分かるわけがない。
「さあ?」
「何、さあ?って!質問に答えろ!」
人生80年。たったの16年しか生きてない青二才だぞ。そんな深い質問の答えなんて、持ち合わせてるわけがない。
「キンタってほんと面白くない。」
「そりゃどうも。てか何だよいきなり。」
「べっつに〜何でもない。」
こういう時は大体何かある時だ。
というか、海里が突拍子もない質問をしてくるのは、そこまで珍しくない。そう言う時は、素直に口に出せない何かが自分の中にあって、こうやって遠回しに答えを求めてくるのだ。
「……人間の存在意義って何?の時は女友達との関係に悩んでた。神様って本当に居るのかな?の時は部活で伸び悩んでた。甘い=美味しいの定義って誰が決めたの?の時は体重増加で悩んでた。それからー」
「あ、その節は…」
へへへとわざとらしい照れ笑いをしながら、会釈をするのが堪らなくイラっとする。
「で、今回は何なの?」
「じ、実は…」
「?」
「す…すすす好きな人が出来ました!!!」
大きな声が住宅街に響いた。

何だそれ。
全然知りたくなかった。
「…へ、へぇ。」
突然のカミングアウトに、一瞬にして心臓が滅多刺しにされた。
腹から絞り出した声は少し掠れてしまった。
「ねえねえ、誰か知りたい?知りたいよね?」
知りたいわけない。この様子だと完全に僕じゃないし、わざわざ僕に恋バナをするって事は、ほぼ脈なしだ。
血の気の引いた手のひらをギュッと握りしめた。
知りたくない。知りたくない。知りたくない!

だけど…
「…だ、れなんだよ。」
海里のキラキラと輝く目を見たら、拒否する事は出来なかった。結局は惚れた弱み。惚れた方が負け。
海里の笑顔を崩したくない。
ただそれだけだ。

「1組の、小山君っ!」

それから海里は、小山君について雄弁に語り出した。
僕は、そっと気持ちを隠していつも通り相槌をうつ。

ココロの在り処なんて聞いてきたくせに、自分のココロが何処にあるかを語るなんて、ほんとに酷いやつだ。

でもきっと、僕のココロはもう戻って来ないんだろうな。


だって、こんなにも君の笑顔が眩しい。

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