君と見た虹
東の空に薄らと浮かぶ七色のアーチを見つけた。
「あ!ママ!見てあれ!虹だよ!虹が出てる!」
「んー?あ、ほんとだ!」
「虹の下には何があるの?」
「何だろうね〜…お宝かもよ?」
「えっ!ホント!?僕今から虹の下まで行って探してくる!」
遠い日の思い出が蘇って来た。
虹を見るとキラキラと目を輝かせ、必ず私を呼ぶのだ。
ママ見てって。
私はそんな息子を微笑ましく思いながら、いつまでも一緒に眺めていた。
虹が大好きな息子は、虹の出現場所へ行こうと作戦を立てたり、登って虹の上を歩くのだとよく話していた。
そんな事も思い出した。
私にとっては昨日のことのように鮮明で、それでいて涙が出そうなほど儚く懐かしい思い出だ。
「あ。━━、見て虹が出てるよ。」
「え?…あ、それより──」
窓の外に浮かぶ虹を見て、懐かしさのあまり伝えてみたけど、息子はチラリと目線を動かしただけだった。
私よりも随分と大きくなった背。
あの頃よりも空に近くなったのに、空を見上げる事はきっと減っただろう。
虹を見て走り出す事も無ければ、キラキラと輝く目を向けてくれる事もない。
虹の下へ辿り着くことは出来ない、虹の上を歩く事は出来ない、虹の下に宝物なんてない、息子はもうそれを知っている。
でも、それでいい。それでいいんだ。
大人になるってそういう事なのだから。
けれど、あの日々に取り残されている私が居るのも事実。少しだけギュッと胸が切なくなった。
いつかきっと、息子も今の私と同じことを考える日が来るだろう。
その時に、あぁ、俺も母さんと見たっけな。なんて…少しでも思い出してくれたりするのかな。
そうしたら懐かしく思ってくれるだろうか。
…そうだったらいいな。
そうしたら自分の宝物をしっかり抱きしめてあげるんだよ。
いつか、それがまた虹の思い出となって、次へ繋がれてゆくから。きっと。
2/22/2025, 7:14:54 PM